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第103話  三匹を助けよう!



「魔方陣で移動するってのは凄いよな」

「そう?」

「発光したりして見た目はとても綺麗だし」

「そうですか?」

「また魔方陣で移動できるかな」

「あまりないと思いますよ?」

「そうか……」

「ざんね~ん」


 不思議な森に戻ってきた俺たち五匹は、収束していく魔方陣を見ていた。変わらずの深い森。その深い森を見回すようにしていると不意に疑問が浮かんだ。


「不思議な森一丁目の施設は……?」

「……無くなってるわね」

「ありませんね」

「不思議な森のみだね」

「あぁ~ もう一回温泉に入ろうと思ってたのに~」

「確かに風呂には入りたいな」


 名残惜しむように、不思議な森一丁目の施設があった方角を再度見つめるものの、目に入るのは同じく深い森。暗さを逃れるようにして日だまりのある、森が開けた部分に目をやると、通勤快速マッドスピードの三匹が不変のスタイルで寝転がっている。


「時既に遅かったか?」

「どうだろ?」

「行ってみましょうか」

「もうちょっと可愛げのある連中だったら良かったのに……」

「可愛げがあったらどうするんだ~い? 可愛がっちゃう?」

「ち、ちがうよラヴ! そうだったらもうちょっと仲良くなれたかもって思ったの!」

「ん~?」

「全くラヴはもう……」


(なんとなく感じてきたんだけど…… クリちゃんはその要素アリなのかな…… 相変わらずの優良エルフ嬢No.1としての地位を守りきってるな……)


究極五月病アルティメットワンウェイホリデーになると反応なくなるんだよな?」

「そうよ……(はっ!?) あんたまさかっ!?」

「なんだよ? それでどうやって特効薬を喰わせるんだ?」

「……」

「ネピア? どうした? (はっ!?)」


(こいつ…… 俺が動けないチビエルフにイタズラするんじゃないかって勘ぐりやがったな…… すぐグリやがるグリエルフめ……)


 しかし助けた所で素直になるとも思えない通勤快速マッドスピードの三匹。そして助ける事を餌に見返りを要求する事も叶わない。何故なら反応が無ければ助ける前に約束できないから。


(なら…… 前払いって事でいいんじゃないのか……? だって命を助けるんだぞ……?)


 この精霊の国へ上陸してから一度も瞑想をしていない社会派紳士。社会派紳士たるもの瞑想は最低でも一日に一回。これを怠ってしまっては社会派紳士の名折れ。


(早く瞑想しないと…… 薄れていってしまう温泉での記憶……)


 だがこれからエルモア、ネピア、クリちゃんの実家へと行くとなっては瞑想など夢のまた夢。ならば瞑想以外の方法を考えるしか無いのは致し方ない事。


「よし」

「……何がよしなのよ淫獣」

「まず息があるか確認してくる」

「……息があっても人工呼吸するつもりじゃないでしょうね」


(こいつ頭回るな…… その発想はグリグリスケベエルフにしか出来ない芸当だ…… そいつは有効利用させてもらうぜ……)


「連続増し増し平手打ちを喰らいたくないので」

「……そう」

「タロさん私も行きますよ」

「エルモアは一旦身体を休めて欲しい。それで念の為にネピアに診断してもらってくれ」

「はぁ」

「ネピア頼むぞ? 念には念を入れておきたい」

「……分かったわよ」


(エルモアの事となれば引き下がるを得まい)


「よし。じゃあ行ってくる」

「私も行きましょうか?」

「クリちゃんにはこれとは別に一緒に行って欲しいところがある」

「は、はぁ」


(完全個室貸切プラン発動条件はこれでクリアか…… ハハッ)


「あたしも行きた~い!」

「ラヴ姉さん?」

「はいな!」

「(お土産を買う際にお酒もどうです?)」

「(いいの!?)」

「(もちろんですよ。なのでどんなお酒を買うか考えてくれます?)」

「(はいさ~!)」


(フフッ これで邪魔者はいない)


 気分が高揚などというレベルでは無い。まさに確定した未来に酔う事なく目が覚めていくようだ。覚醒。


(よぉ~し。まずは生意気なチビエルフちゃんから…… くくく……)


 倒れた三匹に悠然と向かう社会派紳士。日だまりで明るく照らされているので、まずは場所の移動だ。


(どうやって茂みに持って行くか…… いや…… 焦るな…… 俺の身体で隠せばある程度は目隠しになるハズだ……)


「(ペしペし)」

「……」

「(ぺちぺち)」

「……」

「(ギュッ)」

「……ぅ」

「(ムニュ)」

「……ぅぅ」


(意識はありそうだな…… 気道確保してから心臓マッサージ。そして人工呼吸の流れが途絶えた……)


 仕方なくチビエルフは諦めて、残りの二匹に目をやる。どうやらこちらの方が重傷のようだ。息もしてるのか分からない程に腐りきっている。


(遅すぎたんだ……)


 だが俺にとっては好都合。合法的に接吻から乳房マッサージまでは許される状況をゲット。俺は後ろから見えないように身体を動かして死角を作る。反応を伺うようにしながらさりげなく口を突き出した顔を近づけていく。


(接吻行きます! う~  うっ!?)


 崩れ落ちていく意識の中で最後に見たのは、己の股間だった。




 目が覚めるとそこは日だまりの中だった。暖かい日差しが身体全体を包み込んでいく。時折頬を撫でる心地よい風がくすぐったくもあった。


「あ…… 起きた~? 大丈夫~?」

「ん…… んぁ……」


 焦点が天空へ向いていたのを目の前へと移動する。段々とピントがあっていくような感覚を現実に体験し、朗らかな笑顔が愛くるしい赤髪の娘が目と鼻の先にいた。


「……あれ? ……ラヴ姉さん?」

「ラヴ姉さん!」

「あ…… どうして…… 今は……」

「ネピっちにぶっ飛ばされたのさ~」

「え…… どうして……?」


 久しぶりでも無かったが、強制的に眠りに落ちた後に少しずつ目覚めるような鈍い刺激を受けつつ状況を把握する。だが俺は瞬時に理解した事が一つだけあった。


(あ…… 膝枕…… 後頭部にはふともも…… それに、おでこには…… 二つの果実…… これが本当の膝枕なのかもしれない……)


「ラヴ姉さん……」

「なんだ~い」

「ありがとう…… 本当に…… ありがとう……」

「ん~? 大丈夫~?」

「はい!」


(こんなのオプションにだってないだろ…… それをラヴ姉さんは無料で……)


 なんだか落ち着かない気分になってきた。ラヴ姉さんの厚意でこの状態になっているのだ。俺はラヴ姉さんここまでしてもらうほど、彼女に尽くした訳ではない。だが金は貸している。百万クイーン。


(そうか…… そういう事か…… これは百万クイーンの利子…… それならは受領せねばなるまいて……)


「う~んう~ん」

「どした~?」

「気持ちい!」

「ん~?」


(ラヴ姉さん…… 人間のカテゴリーではあなたがトップですよ……)


「あんたぁー!? 気持ちいじゃないっ!? このクソ淫獣がっ!?」

「あいたぁ!?」

「ラヴ姉!? こいつは淫獣なんだから身体を許しちゃ駄目よ!」

「いや~ 結構吹っ飛ぶもんだね~ いい蹴りだよ~」

「何すんだよ!? あ!? コラぁ!?」

「何するも何もないでしょ!? 変態行為はいい加減にしなさいっ!」

「俺が何をしたってんだよ!?」

「それも分からない程に変態に侵食されてんの!? やっぱ浄化するしかないわね!」

「浄化? はっ! 清浄・清潔にしなくてはならいのは御身のアンダーウェアじゃないですかね? 失禁は汚れになるってアン様も仰ってましたよ?」

「……」

「……」

「……ふん。平行線のようね」

「……そのようだな」


 俺とネピアは互いに距離を取る。相手から視線を外さないように横へとジリジリ移動する。先に動くか、それとも相手の出方を見るか。だがその選択肢を選ぶ事なく、この件は終了する。


「あの…… 通勤快速マッドスピードを助けてあげませんか?」

「「はい……」」











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