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第100話  エルモアを救おう! その7



「これは……」

「広いですね……」

「見た感じは…… でも……」

「広~い!」


 目の前に広がる砂。丘の上一面が砂に埋もれている。どうやらこの丘は中央から、くり抜かれているように存在してるようだった。そのくり抜かれた部分から湧き出るように砂が吹き出しているのだろう。少しずつ下流の方へ押し流されるように砂が動いていた。


「どうする? 二手に分かれて左右から調べるか?」

「そうね…… そうしたいけど、何が起こるか分からない。人数はいた方がいいとは思うわ」

「そうだね。確かにこの丘の縁を一週歩いたら結構かかるけど、幼獣ポポタンがいるかもしれないしね」

「どんな感じの幼獣なんだろうな」

「幼いんでしょ」

「幼いのか」

「すっごい成長してたりね」

「ポポタ~ン! ポポタ~ンや~い!」

「ちょ!? ラヴ姉!?」

「……」

「……」

「……」

「……ぅぃ」

「反応あるのはエルっちだけだね!」

「はぁ……。ラヴ姉?」

「なんだ~い?」

「なるたけ刺激しないように行きましょう。どんな獣だか分からないしね」

「は~い!」


 まず一週するように丘の縁を四匹プラス一匹は背負って歩く。辺りを注意深く観察するが、多少流れのある砂が目に入るだけで、何も変化は無い。歩いている丘の縁も平坦そのものだった。


「今のところ……」

「何も無いわね」

「そういやさ。伝説のエルフ達は幼獣ポポタンと出会ったのか?」

「う~ん。出会ったともされてるし、巣だけ見つけたともあるわね」

「出会ったともされたって事は幼獣ポポタンの姿形くらい分からないのか?」

「それが、一切ないのよね。まるでその記録だけ抜き出されているかのように……」

「そうか。口伝で継承して後世の人が物語風にして記録したんだっけ」

「そう。けれど幼獣ポポタンに出会ったという話しでも、その実態は書かれていない」

「分からない事だらけだな」

「分かってる事が少なすぎるのよね」

「その伝説のエルフ達の事も記録に残ってないのか?」

「ううん。それはあるよ」

「名前とか風体もか?」

「うん」

「やぱり格好いいのか?」

「そりゃ伝説だしね」


(やっぱイケメンなのかな…… そうだよな……)


「ズーキさん気になります?」

「あぁ。やっぱりそういった御方達はさぞ男前なんだろうなってさ」

「え? 伝説のエルフ達は女性ですよ?」

「えっ!? そうなの!?」

「はい。エル、モア、ネピ、ピアの四姉妹だったそうです」

「エル…… モア…… ネピ…… ピア…… それって……」

「そうよ。私と姉さんは伝説のエルフ達から頂いた名前なのよ」

「そうだったのか。由緒正しき名前だったんだな」

「すご~い~ぞ~! カコイイ!」

「照れるわね……」

「伝説のエルフの名前を頂戴したネピアとエルモアと共に、究極五月病アルティメットワンウェイホリデーの特効薬探しか……」

「今回はエルちゃんが病気になっちゃったけどね」

「なんの因果か分からないけど、だからこそ見つかると信じているわ」

「そうだな。そういった事なら間違いない。絶対見つかる」

「そうだね。私も信じてるよ」

「見つかる!」

「……ぅぃ」


(エルモアも返事をしてくれたのか……?)

 

 だが俺たちの気持ちとは裏腹に、数時間かけて一週するも何も見つからなかった。希望が砂と一緒に滝に流れていくように、元の場所へと戻ってきてしまう。


「そんな……」

「……」

「どうしよう……」

「……ん?」

「どうしたのラヴ姉さん?」

「いや…… あの場所…… 動いたように感じたのさ……」


 ラヴ姉さんが指さす砂の洪水に目を見張るも、俺にはただ砂が滝に向かって流れているようにしか思えなかった。


「違った流れが見えた? ラヴ姉?」

「そうさね。何か向かって……」

「ホント? あ…… 鳴き声……?」

「ホントね…… ずいぶんと可愛らしい…… はっ!?」

「「「「 幼獣ポポタン!? 」」」」

「(ビクゥ!?)」

「あ、ごめんねエルちゃん? 大きな声だして」

「……ぅぃ」


『キュ~』


「あっ! ホントだ! 俺にも聞こえたぞ!?」


『キュ~ キュ~』


「こっちに近づいて来てるわね……」

「だ、大丈夫かな……?」

「こっちだよ~!」


『キュ~ キュ~ キュ~』


 滝へと流れる砂の流れとは違った動きが、こちらへと向かってきていた。そのまま俺たちの前までその動きがくると、一転して手前数メートルという所で止まる。


「おいで~!」


 ラヴ姉さんがそんな事を言った瞬間、それは砂の中からラヴ姉さんに向かって飛ぶようにして襲いかかった。


「おわっ!? なんだ~い!?」

「大丈夫ラヴ姉!?」

「ラヴ姉さん!?」

「ラヴ!?」

『キュ~』

「あは。かわいいね。どした~ん? ん?」

『キュ~ キュ~』

「かわいいわね。これが幼獣ポポタンなの?」

「かわいい~」

「……」

「……ぅぃ」


 エルモアも賛同したのかは分からないが、少なくとも三匹の娘達はそれを可愛いと呼ぶ。だが俺にはどう見てもあれにしか見えなかった。


(これって…… オナ……)


 心の中でその名を呼びそうになるも思いとどめる。幼獣ポポタンらしき生物の色は桃色ピンク。長さは二十センチほど。太さは七~八センチ程か、柔らかそうな身体をくねらすようにして存在をアピールしていた。


(やっぱりオナ……)


 もう一度だけその名を呼びそうになるも思いとどめる。厚生労働省が定めた、食品衛生法基準第370号準拠素材を採用した安心素材のジョークグッズな見た目なそれは、まさしく子供のおもちゃではない風体であった。


「ん~? よしよし」

『キュ~ キュ~』

「幼獣ポポタンなのかしらね」

「どうだろね~ けど見た事はないよね~」

「……」

「……ぅぃ」


(まぁ悪い奴ではないだろう…… それに世話になったしな……)


「ポポタンさん? 俺たちはエルモアの病を治す為にある花を探しています。黄色くて…… とても綺麗な花なんです……」

『キュ~』

「それを砂魚と一緒に食べさせてやりたい。それで彼女の病が治るんです。もし知っていたら案内してくれませんか? お願いします!」


 そうして俺はポポタンさんに頭を下げる。周りから見ればラヴ姉さんに頭を下げているように見えるが、それはポポタンさんがラヴ姉さんの胸元に存在したからだ。


「あっ!」

『キュ~ キュ~ キュ~』


 すると幼獣ポポタンさんとおぼしき生命体は、ラヴ姉さんの胸元を飛び離れ、砂の広がる中心地へと全身をくねらせるようにして前進していく。こちらがそれを見守っていると、同じように可愛らしい声で鳴く。


『キュ~ キュ~ キュ~』


「誘ってるよな……」

「誘ってるわよね……」

「誘ってるね……」

「誘われたぁ~」

「……」

「ぅぃ」


「よし。じゃあポポタンさんと一緒に行こう!」

「そうね」

「そうですね」

「わ~い」

「ぅぃぅぃ」


『キュ~ キュ~ キュ~』


 鳴き声を出しながら五匹を先導するポポタンさん。その勇ましきかな匍匐前進スタイルの行進は危うげなく、しっかりとした足取りであった。


(足はないけどな……)


 砂の上では水を得た魚のようにズンズンと進んでいく。こちらといえば砂に足を取られて思うように進めていない。もちろんそれは俺だけだった。


「なにしてんのよ……」

「だ、大丈夫だ……」

「大丈夫ですか?」

「どうしたんだ~い?」

「(……ぺっ)」


(くっ エルモアの吐き捨てるような目線がとても痛い…… 痛いよぉ~)


『キュ~ キュ~ キュ~』


「ほら、呼んでるわよ……」

「す、すまないポポタンさん! ちょっと砂場は不慣れで……」


『キュ~』


「めっちゃ気を使われてるわよ……」

「本当だね。待っててくれてる」

「優しいね」

「ぅぃぅぃ」

「……ごめんなさい」


 心の中でポポタンさんにお礼を言いつつ、その優しさに触れるように歩いて行く。一時間も歩いただろうか、ちょうどこの丘の中心地に佇む六匹。


『キュ~ キュ~ キュ~』


「ここですか? ポポタンさん?」

「そうみたいね。動かないし」

「でも何もないね」

「何もないね~」

「……」


『キュ~!!!』


 一度大きくポポタンさんが鳴いた瞬間にそれは起こった。ポポタンさんを中心に砂場が下へと沈み込んでいく。慌てふためくものの、本当に洪水と化した砂の流れに逆らえる事は出来ず、俺たち六匹は仲良く砂の中へと引きずり込まれていった。











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