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陽は沈み、月は登る  作者: hachikun
9/10

落日と月の登城

 事前情報でわかっていたけど、それでもすんなり王都に入れたのは驚きだった。

 警備の兵士たちはオークの肩に乗っている私を見ただけで、すぐにローザリア・ホーエンハイムだと気づいてくれた。彼らが門を開いて迎え入れてくれたおかげで、誰も傷つけずに私たち占領軍は王都に入る事ができた。

「姫サマ、敵が近づいている」

「ええ、わかってるわ」

 限りなく庶民に近い警備兵はともかく、一般の兵士以上はほとんど敵だろう。

 とはいえ、どのくらい強いかは微妙。なぜなら現在の彼ら王都の兵士の仕事は外敵からの防衛でなく、王都の住民の取り締まりだからだ。キラケニアやココア嬢に批判的な者がいないか目を光らせ、いれば調査を行い、場合によっては逮捕するのが仕事と成り果てている。

 そんな、兵士という名の憲兵もどきなんかに私の戦士たちが負けるわけがない。

 ただの魔物でもそうだけど、この子たちはクアやリカたちが訓練してるから。

「打ち合わせ通り、市街での戦闘は魔物チームに任せます。ゲルガは指揮をお願いね」

「はい、承知しました」

「他の人間メンバーは王城にそなえて今は動かないで」

「はい、ローザリア様!」

「了解です!」

「ういっすー」

 リカたち人間メンバーを城内にふったのは、もちろん彼女たちがウチで一番、王城の人の顔を知っているからだ。本当は外にも少しふりたいけど、人が少ないので仕方ない。

 まぁゲルガが外にいる以上、手があけばクラッシは手伝いにいくだろうしね、うん。

 もちろん警戒は緩めない。比較的支持者が多いのはわかっているけど、当たり前だが皆に支持されているわけはない。キラケニア派やココア信奉者もまだいるだろうし、たとえそちらに批判的であっても、魔物を率いている時点で私を認めない者たちは当然いるだろうから。

 だけど、もう私は止まるつもりはない。

 最終的にこの国をどうするかは、まだ漠然としている。

 だけど少なくとも、キラケニアと王族一族からこの国の指揮権を取り上げ、ココア嬢とそのとりまきにきっちりと思い知らせる事をやめるつもりもないし、そうして権力を握ったら、すみやかに隣国への食料買い付けなどの手続きに動き出すつもりなのも変わらない。

 最終的に、新王権の人に簒奪者(さんだつしゃ)呼ばわりされ、今度こそ本当に断罪されるかもしれないけども。

 でも、今はこれが最善だと信じている。

 

 王城が迫ってきた。

 多少の抵抗はさっきから続いているけど、ほとんどが護衛の魔物たちに一掃されている。まるで私は何もない場所を歩いているかのように、王城に向かって進んでいる。

「うわあああっ!」

 視界の向こうで、影からリカに後ろから斬りかかろうとした兵士がオークにむんずと捕まれ、ポイ捨てされている。どうやら戦うまでもないと見られたようだ。

 そういえば、あなたはオークについてどの程度御存知だろうか?

 たとえば、オーガというと太った大きい鬼というイメージで見られがちだけど、実際のオーガは非常に人間に近い。つまり一般のイメージと実情は随分と異なっているわけだ。

 ではオークはどうかというと、これまた同様。単なるイノシシ頭の魔物と考えると、いろいろと誤解してしまう事になる。

 確かに、二本脚で立ち上がったイノシシという容姿のオークはまさに魔物だ。実のところ、特にこうしてオーガと並んでいると外見的な差は大きい。そして敵対する兵士たちも、オーガよりもオークに大きく反応している。それだけオークが人間とかけ離れた、化物に見えているのだろう。

 ところがオークはその凶悪な外見に反して、子沢山で穏やかな種族でもある。ちょろちょろと可愛らしい二本脚のウリボウの集団に思わず萌え狂った私たちに罪はないと今も思っている。

 この点、戦闘狂で手が早いオーガの方が、オークよりもはるかに危険で扱いにくい魔物なのだ。

 

 そういえば、オーガとオークでは、その手伝ってくれている経緯も全然違うのよね。

 

 私の魔法は魔物をいわば目覚めさせるもの。家来にするってわけじゃないから、敵対しないといっても一緒に戦ってくれるとは限らない。目覚めさせた主が私であると認識するからって、別に私は命令者でも支配者でもないのだから。例外は、呼び出しに召喚もかかっているスケルトンたちだけだ。

 オーガは私が目覚めた時すでに従ってくれていたけど、これはクアたちが決闘で善戦したり勝ったりしたから。なんと彼らは武芸者タイプで、無実の罪で殺されかけた私たちに大いに同情してもくれたらしい。こんな強き娘たちになんとひどい事をと。

 なんというか、無頼の浪人が士官したみたいな話に思わず苦笑した。

 で、そんなオーガに比べてオークは正反対の反応をした。オークは私をひと目見て首をかしげ、そしてフンフンと臭いを嗅いできた。森の臭いがすると言われ、そのまま何も言わずに彼らは護りに入ってくれた。

 あとで知った事だけど、オークはもともと森の守護者らしい。もちろん森の臭いとはトレントを意味していて、彼らはトレントつきの人間や動物も守護対象にしているらしい。

 つまり例の魔法がたとえなかったとしても、種つきの私が彼らに害される事はなかったわけだ。

 まぁ、クアたちは「オーガの時はあんなに大変だったのに……」と複雑そうだったけども。

 

 城門の中に入った。

「予定通り部隊を分けます。

 リカたちはあの女の確保に行ってちょうだい。アレはちゃんと持ってる?」

「はい、持ってます!」

 リカの連れているオーガのひとりが大きな袋をしょっている。あの中にはあの日、私やリカたちを拘束し、護送に使われたのと同じ拘束具が入っている。

 よし。

「私たちはキラケニアの確保にいきます。気をつけて!」

「はい、姫様も!」

 ええ。

 

 私たちの魔物軍にはいろんな種族がいるけど、それぞれに得意分野がある。たとえば今回のような建物の中での戦闘の場合、大型種や人型でない者はやはり不便も不利もある。人間の作った建物なのだから、人間に近い大きさと体型の種族が有利なのは当然といえば当然だろう。

 ゆえに王城突入組は、あまり大きくない人型ばかりになる。最大の者でもミノタウロス程度であり、しかも彼らはあまり小さな部屋には入らない。入れる者もいるけど、やはり狭いのは好みではないらしい。

 逆に狭くなると活発になるのは、子鬼(ゴブリン)系の上位種。ゴブリンゼネラルやゴブリンメイジの類は身体が小さいといっても一般のゴブリンよりは大きいので、体格的にもそれほど不利にならない。そしてスペックは問題なく高い。

「うおおおっ!」

「!」

 といっても、まだ兵士や騎士にも武芸者はいるわけで、ちょっとひやりとしたり。

 そんなこんなをしながら、城内を進んでいった。

 そして王の広間にいよいよ到達したその瞬間にその声は聞こえてきた。

「そもそも、あらゆる情報に目をふさぎ、甘ったるい夢に溺れていたのは、どなたですかな?」

 老いた神官長の声で、キラケニアを皮肉たっぷりに嘲笑う声が聞こえてきた。

(おっと、先に始めてたのねローダ様)

「ありがと、おろしてくれる?」

「ハイ」

 運んでくれたオークにおろしてもらうと、

「よし、行くわよ。突入!」

「はっ!」

 王の広間に突入、現場を押さえた。

 

 

 

 そんなわけで、無事に王都と王城を確保した。

 

 だけど大変なのはこの後だった。

 やはり王族は王妃様以外誰も信用できないようだ。その王妃様と同タイプと言われた王太后様はもう故人だし、なんとも。

 念のために王妃様に女王になる気はありますかと尋ねたら、やんわりと拒否された。そして、そもそも私が女王になったら結局何も変わらないと思われますよと逆に諭された。あー、確かに。

 それで暫定の王は誰にしようかしらと言ったら、あなたがやらずして誰がやるのと口々に言われた。クラッシに至っては、あんたアホですかという顔で見ていた。

 そんなわけで、私が臨時の女王となり、魔道具で即座に王都に布告した。

 

 ひとつ、暫定で女王に就任する事。

 ひとつ、あくまで暫定であり、旧王朝と関わりを持たない有能な第三者でふさわしい者がいれば、そちらにに譲り渡す事もやぶさかではない事。

 ひとつ、魔物は人材不足ゆえに古代の魔法で意思を与え協力を頼んでいるが、本来魔物は森に、野に、山にいきる者であって人間の都合で兵士にするべきものではない。よって、武芸に優れた個体など専門職はともかく、通常はよき人材が確保され次第、それらを優先的に採用していく事。

 ひとつ、魔物から過剰な魔素を抜くための研究所を設立する事。

 

 特に後のふたつは重要だった。

 魔物に忌避感をもつ、魔物を嫌う人々だって現状少なくない。だから、私の立場も含めて全ては暫定であるという主張を忘れなかった。

 

『見ての通り、意志疎通できれば魔物とも折り合えます。しかし皆さんも感じられている通り、はっきりいって今の時代には時期尚早です。私について変な噂が飛び始めているように、魔物を使役したり折り合う事が普通にできるようになるには、まだまだ時間が必要でしょう。皆さんもそう思われますよね?

 人里で新しく、この魔物たちから生まれた子供たちには危険がありません。

 しかしダンジョンで生まれる魔物はやはり暴走しており危険なのです。彼らはダンジョンの守り手なのでそれ自体は間違いではないのですけれども、外にあふれた時の事を思えば、やはりダンジョンの外で浄化するノウハウは必要でしょう。

 ですので、ここにモンスターテイム研究所の創設を発表します。竜と契約した竜騎士がいるように、他の魔物たちとも平和に共存できないか、時間をかけてその道を探すための研究所です』

 

 お城で一番若い見習い侍女をオークに抱えてもらい、自分の後ろに立ってもらい、その映像つきで演説した。もちろん、彼女が以前からの王城勤めで、もちろん魔物使いのスキルなども持たない事も告げて。

 ちなみにお城で働いていた一般職の皆さんは、そのほとんどが残留を希望した。むしろ喜んでいる者もいた。

 いわく。残っていた者たちは、そもそもキラケニアやあの女の目に触れないような地味な役職の者や、守るべき家族などがいて耐えている者たちが多かった。いつ殺されるかと怯えながら仕事していた者もいたらしい。物凄く喜ばれた。

 反面、どさくさに逃げようとした者たちもいた。私たちを投獄していた者や護送隊の生き残りはその典型だけど、要するに今の環境で甘い汁を吸っていた者のほとんどが逃げ出したという事だ。

 そして、そのどっちでもなかった者たちもいた。それは神官長が束ねていた神殿と、そして世俗に関心のない偏屈揃いの魔窟、魔道研究所だ。

 

「お帰りなさいませローザリアどの。愉快なお仲間が増えましたようで」

「ええ。その節は挨拶もできずにごめんなさい」

「いえいえ」

 神官長はあいかわらずだった。

 愉快なお仲間というところで、お堅いリカは眉をしかめていた。魔物と一緒くたにされたのが納得できなかったようだ。

 だけどねリカ。

 貴女の連れている選りすぐりの配下がオーガばかり、しかも人間目線で見ても、筋肉美あふれる(おとこ)ばかりなのは、それ完全に趣味じゃないの?

 まさか真面目一点張りのリカがこんな方向に行くなんて。

 ええ、絶対あなたも愉快なお仲間のひとりよ、間違いないわ。

 これについては、クアがこっそりと教えてくれた。

『ローザリア様、リカって筋肉フェチですから』

『やっぱり』

 オーガは元々人間が鬼化したと言われるほど人間に近く、そしてバリバリの肉体派だものね。

 ちなみにクアもオーガを連れているけど、こっちは女が多い。体型も武装も似ているので、おそらくクアは自分の武術を教えたりもしているのだろうと思う。女たちがオーガでなければ、普通に師匠とお弟子さんだ。

 魔道研究所の方はゲルガたちが行っているが、あちらはそもそも仕切る必要などない。あそこにいるのは雇い主が王どころか悪魔でも気にしないアレな魔法狂いばかりなので、方針と予算配分だけ確認しておけば、あとは放置でよい。

「あ、ローザ。ローザの研究したいからぜひお越しくださいって研究所長が言ってたよ?」

「却下」

 今のところ、実験動物になるつもりはありません。

 

 

 人間の国に魔物が共存しているのは悪い事ではない。

 だけど現状を悪意に解釈すると、魔物の力で支配しようとしていると思われる可能性も高かった。それは私にとっても、その人達にとっても不幸な事だと思った。

 ゆえに融和策には気を使った。

 現在のところ、意志の光で魔物の敵対を解けるのは私だけだ。だからこそ世界では、長寿ゆえに魔素が抜けて意志を手に入れる竜種など、ごく一部の魔物以外とは共存できずにいたのだ。

 しかし、今、私の連れている魔物たちが街中で子孫を残した場合、彼らはダンジョンの濃い魔素に汚染されていない。すなわち、普通にただの異種族になる。

 裏返せば、今、私の連れている大量の魔物たちは、未来に残せる貴重な財産ともいえるわけだ。

 だからこそ。

 リスク承知で融和策をとっても、社会になじませる意味があると考える。

 

 

 さてと。

 こうして何とか王権を奪い立て直しを始めたわけだけど、忘れちゃいけない事もある。

 そう。

 ざまぁ……コホン、そうじゃなくて、キラケニアたち犯罪者組をどうするかだ。

 

 では軽いところから。

 基本的に王族は全員、ただの貴族とした。これは前王妃様の人望によるところが大きくて、本来なら全員処刑するところだった。

 まず、王族一家が建国前に名乗っていたオストロ男爵家を復興。王都に遠くないところにいた汚職貴族の領地の後釜にすわってもらい、元王妃様をその当主に据えて元王様は婿養子とした。

 元王様の系列は基本的に一代限りだが、当主である元王妃様が認めた者だけが次代になる事もできる。もちろん王妃様が外から誰か男を連れてきて息子を産ませてもいいのだけど、彼女はおそらく旧王族の誰かを育てて次代にするんだと思う。

 キラケニアは処断を考えていたのだけど、とある国の女帝がものすごく彼を欲しがっているという事をお父様からきいたので、そちらの女帝陛下に確認の後、差し上げる事にした。できれば手元で断罪したかったが、かの国は食糧援助で一番色よい返事をくれたところでもある。たくさんの国民を飢えから救えるのだから、元王族としては悪くないのではないだろうか。

 まぁ。

 こっちに食料が足りない事を見越した上での要求、さらにはキラケニアが今回のこの国の問題の主犯のひとりと知ったうえでの要求なんで、ろくな理由でない事は明白なのだけれども。というか公式文書による返答で、一応は王子であるキラケニアの事を「代金」っておもいっきり書いてあったし。

 まぁいいだろう。その先は私の知った事ではない……いやむしろ、好きにしてください、ええ。

 その他、立場を利用して汚職していた連中などは、それなりに処分。

 

 

 そして最後。

 最大の元凶であるココア嬢と、その取り巻きの者たちなんだけど。

 

 

「ローザ様」

「なあにゲルガ?」

「時間ですが……その、本当に見学にいくのですか?執行は順調だと思うのですが?」

「ええ、もちろん行くわ。

 彼女たちには、私が私として時々顔を出して、小馬鹿にして笑ってあげる事も刑の一環なんだもの」

「そ、そうですか……女は怖ぇや」

「何かしら?」

「いえ。まぁクラッシもおりますが、危険なところですからご注意ください」

「ええ、ありがと」


 次回。最終話『自業自得』


グロ注意、猟奇注意、その他いろいろと不快感をもたらす表現注意です。

がんばってR18にならないようにおさめます。


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