第一部 神帝編 第三章
衰退した人間達が住む村にもまれにこうして支配する側の超生物が来ることがある。
しかし超生物にとって人間は虫けら同然であり人間側からしたらなるべく係わらず嵐が過ぎるのを待つようにジッと超生物が去ることを待つのであった。
超生物側にも人間を保護する法律が制定されてはいたものの人間狩りとして殺人を犯す超生物もいたが彼らが法に裁かれることは皆無であった。
「てめぇ何しに来た!結局、俺を殺しに来たか!」
東 了は階段から降りてきた男、神 帝から妹の明美を守るように立ちふさがった。
『そうしても構わんが。なんだこの宿はいつもケンカ腰で接客するのか?
それに昨日の気迫とはずいぶん違うな。』
「どうせ金払わねぇくせに客じゃねぇだろ!」
『生かしてもらっているだけで感謝するんだな。』
帝の視線が明美を捕らえた。
『…そうか、その女がお前の弱点か。』
了の表情に緊張が走る。
帝はニヤリと笑い鋭いキバが口元から覗かせる。
「お兄ちゃん!もうやめて!」
「明美は向こう行ってろ。
こいつは客でもなんでもねぇただの犯罪者だ。
泊める必要なんてねぇよ!」
了は帝を睨み付けたが帝は軽く聞き流すように言った。
『ようやく見つけた宿だ。
・・・ではこうしよう。
昨日お前にやった大気砲でチャラだ。悪くあるまい。』
大気砲は昨日、帝が了の足元に置いていった武器だった。
超生物にタダで物をもらった物乞いのような屈辱感の払拭と
両親から受け継いだ宿屋の中、妹の前で争うことは了にとっても決して望むものではなかった。
「…いいだろう。だが明日朝一番で出て行くんだ。」
しばらくして生徒会の仕事を終えた慎治がやって来た。
了は慎治を奥の部屋へ招きいれた。
だがその直前、慎治はまだ入り口にいた帝に気が付き足を止めた。
みるみる慎治の表情が険しくなる。
「慎治?どうした。」
帝も視線に気が付いたのか慎治を見た。
「慎治!!」
ようやく慎治は帝から視線を逸らして顔を青ざめさせたまま奥の部屋へ向かった。
了には慎治の尋常ならざる表情にすぐ思い当たった。
慎治がまだ幼い頃、目の前で両親が超生物に殺され、
その時のショックで言葉と表情を失った。
それから数年したある晩、慎治は復讐を遂げて言葉と少しの表情を取り戻したのだった。
しかし今なお超生物を見るとあの時のショックが蘇るのだろう。
「超生物が泊まっているのか。」
慎治は少し落ち着いた様子で聞いた。
「ああ。」
「そうか…。だがあいつらにあまり係わるなよ。
ろくな目に合わないんだ。
特に明美ちゃんには近づけない方がいい。」
「それもお前のカンか?
明日の朝すぐに出て行くように言ってある。何も起きねぇよ。」
慎治と一瞬の邂逅のあと、玄関の間にいた帝はしばらく思いにふけっているようだったがやがて自室へと引き返した。
誰もいなくなった玄関の間に突然変化が訪れた。
電気の明かりが弱まり部屋全体が薄暗くなり、鏡が曇って鋭い音とともにヒビが入る。
しかしその異常な光景に気づく者は誰もいなかった。