第一部 神帝編 第十章
子供が追われていた。
森の中、昼の3時を過ぎ日差しが葉で遮られて薄暗くなっていた。
10歳くらいの女の子で寒さで吐く息が白かった。
手には汚れたウサギの人形を抱えていた。
涙で目元を腫らして裸足で森を走ってきたのだろう足は擦り傷だらけになっていた。
彼女は家族と一緒にトラックで移動中、一匹の超生物に襲撃されたのだった。
木を切り薪にするのがこの家族の平凡な毎日だった。
女の子もまた家族を助けるため枝を集める仕事をしているのだ。
家族は皆殺しにあい母親が犠牲になってかろうじて娘だけを逃がした。
超生物が人間を襲うのは遊び感覚に過ぎない。
所謂、人間狩りは超生物たちにとって表向き禁止されており人間保護法も存在する。
しかし破ったからといって罰則はなく、多くの超生物は無関心であった。
一方で人間狩りを擁護する意見もある。
人間狩りを行うことで超生物の犯罪が抑制されているというのがその理由だ。
国によっては養殖された人間をハントする施設も存在する。
女の子は力尽きその場でうずくまった。
恐怖と寒さで体が大きく震えていた。
木の葉がガサッと揺れて女の子は緊張で体がはねるように反応する。
それは野鳥の飛び立つ音だった。
うずくまってどれくらいの時間が過ぎたか・・・
日差しは変化していないので短い間だったのかもしれない。
3メートルくらいの爬虫類のような超生物がゆっくりと近づいてきた。
トカゲのような顔で注意深く回りを観察しながら獲物を探していた。
ウサギの人形を強く握り締め過ぎ去るのを待つが隠れていた木が大きく軋んで地面から抜き取られた。
「怪我はないかい?」
女の子が恐々と顔を上げるとそこにいたのは超生物ではなく
6人の男女が女の子を取り囲んでいた。
「由紀。この子を頼む。」
そう言った男は松下慎治だった。
由紀と呼ばれた女は軽く頷いた。
慎治は他の3人と共に女の子を追っていた超生物に向かっていった。
由紀が女の子に触れると女の子はうっすらとした光に包まれる。
こわばった女の子の表情が緩んでウトウトし始めた。
由紀のすぐ横でルキフォカレが女の子の汚れた顔を拭き取ってやった。
「かわいそうに・・・。この子の生活は今日から一転するだろう。」
「ルキフォカレ。この子を施設に入れてあげてあげて。」
「もちろんだ。その為の施設だからね。
この子が望めばだが・・・。」
ルキフォカレは超生物と仲間たちとの戦闘に目をやった。
「彼は本当の意味で心の傷を埋めることができたようだ。」
慎治もまた目の前で家族が超生物に殺される経験を負っていた。
以前の慎治であれば怒りに狂い超生物に立ち向かっていったことだろう。
ルキフォカレに超能力の素質を言い当てられ短期間でテレポート能力を開花させた慎治は
幾たびかの戦闘で人間を救ってきた。
しかし、ある日自分と同じ境遇の者を見て過去のトラウマが暴走を引き起こした。
ルキフォカレ達が暴走を押さえ込もうとした結果、慎治は自分自身の体を石化させてしまった。
それを救ったのが由紀だった。
由紀は当時メンバーではなかったが彼女の夢の中で慎治の深層意識に近づき
ルキフォカレ達の力の後押しで呪縛から開放することに成功したのだった。
慎治は超生物のパンチを巧みに避けると軽くその腕に触れた。
その瞬間超生物の腕だけがテレポートして消え去り緑色の血が超生物の体から噴き出す。
『人間ごときがっ!!』
超生物はめちゃくちゃに暴れまわるが慎治は超生物の体に飛び乗って両手で頭を掴んだ。
「地獄で詫びろ」
超生物の頭が消え去って、体はそのまま地響きを立てて倒れた。