些細な過ち
愚図……愚図かあ。
驚いた。まるで人形のように整った顔をした少女が、口にする台詞とは思えなかった。
いい加減に彼女の発言によって受けた衝撃が和らいでもいいのではないか。なのにまだ引きずっている自分は、なんて切り替えが遅いのだろう。自己嫌悪に陥りそうだ。
何よりも証拠に、乗り込んだ輿の驚くほど乗り心地の良さや、豪華な意匠を施された王宮内に目を奪われるどころか、慶花の暴言が頭の中で繰り返されているのだから。
確かに、自分は姉のように優秀でもなく、機転が利くでもない。急な出来事の対応は苦手で、頭が真っ白になってしまう。
双子なのにどうしてこんなにも違うのだろう?
うっかり溜息を吐きそうになるが、ここが王宮内であることを思い出し、慌てて飲み込んだ。
ちらり、と隣りに並んで歩を進める少女を盗み見る。凛とした端正な横顔。星詠み姫候補に選ばれるくらいだから何事においても優秀なのだろう。
そう、きっと絹蘭のように。
幼い頃から周囲の期待を一身に受け、その期待に応えられるような。期待もされず、出来なくても仕方がないと周囲も諦めている自分のような人間の気持ちなんてわからないのだろう。
愚図なんて言われても、仕方がないか。
再び溜息を洩らしそうになるが、ふと自分の犯した過ちにようやく気付いて愕然とする。
そうだ。開き直っている場合じゃなかった。
今のわたしは絹蘭だ。更紗ではない。へらへら笑っている場合ではない。
大事なことに今更気づくなんて。どこまで間抜けなのだろう。
体型や顔立ちは同じだとしても、同じ衣を纏い、化粧をし、髪を結ったところで、絹蘭になれるわけではないのに。
聡明そうな慶花なら、自分が替え玉だと見抜いてしまうかもしれない。
どうしよう。
替え玉だと気づかれていたとしたら、どう言い逃れすればいいのだろう。
更紗が思案し始めたところで、前を歩く宮女が突然足を止める。
ぶつかる!
一瞬遅れて気づき、宮女に体当たりしてしまいそうになる。が、寸でのところで横から伸びた腕が――慶花が止めてくれたお陰で事なきを得る。
ありがとう、と言おうと口を開きかけたが、宮女が振り返ったのでその機会を失ってしまう。
「こちらがお二人が滞在する部屋でございます。ご案内させていただきます」
「は、はい」
ちらりと慶花の顔を盗み見ると、一瞬彼女の表情が怪訝なものに変化した――ような気がしたが、気のせいだったのかもしれない。
「ええ、頼みます」
と、慶花は軽くほほ笑んだだけだった。