紅家の姉妹
「私が、ですか?」
母の言葉は、あまりにも信じがたいものだった。普段なら母の決定に異論を唱えたりなどしないが、こればかりは唱えずにはいられなかった。
「私が、姉様として……王宮へ上がれと?」
無理です。と告げた声は、驚きのあまり掠れていた。
姉の絹蘭と更紗は一卵双生児で、体型や目鼻立ちは同じものだ。しかし片や星詠みの資質を見出され、幼い頃から星詠み師としての英才教育を受けてきた絹蘭と、資質無しと断じられ、よく言えば伸び伸びと、実際のところは放任されていた更紗は、あまりにも隔たりがあった。
立場や追う責任の違いなのか、二人の性格はまるで真逆だ。楚々とした立ち振る舞いと、幼い頃からの努力故か、確固たる自信は彼女を内面から輝やかせていた。
一方、更紗は一族の期待を一身に受けた姉の姿を見て育った。幼い頃から燻る劣等感故、勉学だけは努力していたものの伸び悩み、ますます彼女を委縮させていた。
母、蘭汀の薄い唇から溜息が漏れる。
「無理は承知です。ですが更紗。絹蘭の身代わりをできるのはお前しかいないのです」
見てくれだけで言うなら、確かに母の言う通りだ。赤みを帯びた蜜色の髪、白磁のような肌、栗色の瞳。幼い頃は見分けが付かないと言われていた。でも今は違う。
「やはり無理です。もし替え玉だと気づかれた時は? 事実を告げた方がまだ問題がないのでは?」
「お黙りなさい」
蘭汀の一喝に、ひゅっと息を呑む。
「無理は承知と申したろう。出立は三日後。それまでに絹蘭として準備をなさい」
我が家――紅家の長である母には逆らえない。
「承知、しました」
頷くしか道は無かった。