51.式神と黄昏の童話
〜式神と黄昏の童話〜
式神とは要するに式術でつくった使い魔のこと。
その姿は術者によって様々だ。
おそらく先ほどの白い狼も誰かの式神で、ビショップの突然の行動から考えると何かの合図だったのだろう。
けれどここで決着をつける予定だったクローバーにしたら面白くない。
特に途中で戦いを放棄など、もってのほかである。
「待てビショップ!」
「待てといわれて待つような奇特な人間もいなかろう」
ビショップの逃げ足の速さに少し苦笑を漏らしつつクローバーは相手を追う。
未だスピードを落とすことなく走るビショップは、何を思ったか自身の懐をまさぐった。
そして式紙を2枚ほど出すと
「ゆけ。式神」
こう言い放った。
式紙はボウンと猫の姿に変化し、素早くその場を去った。
一方ビショップはどこかを目指し走る。
「ビショップ貴様、途中で戦を放棄するなど言語両断」
「悪いが拙僧は僧侶だ!大和魂をもった武士どもと同じにしないでもらいたい」
そう言い争いをし、だが双方息を切らすこともなく走り続けた。
スペードは木の下に行き、雨を避けると紅い指輪に触れた。
「ジョーカー、ジョーカー。聞こえる?」
あぁ、とジョーカーの低いような高いような良くわからない音程の声が聞こえた。
そういえばジョーカーとは何だろう。
スペードが国に来ていたことに気をとられて、アリスはそれを考えるのを忘れていた。
「そうだスペード。その、ジョーカーって何なの?その指輪も・・・」
紅い指輪をちらりと横目で見ながらアリスは尋ねる。
ジョーカーという存在が考えれば考えるほどわからなくなる。
雨がかかるとジョーカーはスペードになった。
「何と言うか、簡潔に言えば“火”かな」
「火?」
アリスはスペードの言った意味が理解できず、そのままオウム返しした。
無知は罪なり、というが今のアリスは罪だらけになってしまう。
理解できないことばかりだからだ。
「うん、火。火の悪魔、火の神・・・言い方は色々あるけどね。
とにかく、火をつかさどる人間ではない異形のモノ。
それがジョーカー。アリスも知ってる・・・って、今は記憶、ないんだっけ?」
「あ、いいえ。記憶は戻ったわ。そういえば、いっていなかったわね」
ただ、リデルのことは言わないつもりだ。
全てが終わったら言うつもりだから、今は言わない。
スペードはというと記憶が戻ったことに喜び、また口を開いた。
「なら、アリスも知っているだろう?『ライオンと火のピエロ』っていう童話」
ライオンと火のピエロ。それは黄昏の国の民なら誰でも知っている御伽噺。
とある森に住む動物の王様、ライオン。
平和に森を治めていたけれど、ある日突然どこからか国を寄越せと火のピエロがやってきた。
当然王様のライオンはそれを拒否したけれど、寄越さないなら、とピエロは森を焼き、動物達を苦しめた。
そこで王様ライオンは火のピエロと対峙してそれを止めさせようとした。
だけれどピエロは嘘つきだ。
ピエロが逃げようとすると、ピエロは足を滑らせ森の泉に落ちてしまう。
森の仲間は助けようとはしなかったけれど、ライオンだけはピエロを助けた。
命が助かったピエロは、ライオンに感謝し、幾末までライオンの一族に仕えると約束した。
そしていつでも助けられるようにと、ライオンのしていた指輪に入った。
ライオンが危なくなったときは、火のピエロが助け、森はそれからずっと平和だった・・・という話だ。
「それが、どうした、の?」
「この話の舞台となる森は黄昏の国。動物たちは国の民。ライオンは黄昏の国の国祖。
ここまで言ったら、わかるだろう?」
アリスはゆっくりと頷く。
そう、その御伽噺の火のピエロとは、ジョーカーであることに。
「話の通りなら、この指輪にいるジョーカーは僕の先祖・・・国祖に助けられてその恩で僕も助けてくれている」
「でもなぜ、スペードが待ったく別の、ジョーカーになったの?それにどうして雨でまたスペードに戻ったの?」
『俺の特技には包括と言うのがある。それは宿主に乗り移る技。
だがな、俺は水が死ぬほど大嫌いだ。水以外の魔術を喰らっても痛くもかゆくも無いが、水だけは一滴も駄目だ』
だから雨を浴びただけで包括が解けたのだ。
そしてスペードに戻った。
『人間が俺のことを火の神と言おうが、火のピエロと呼ぼうが関係ない。
ただそこに存在しているモノ。それで充分だ』
ハッキリとそういったジョーカーに、スペードはまるで我が子をいつくしむように指輪を撫でた。
更新はしても話が全く前に進まないですね。
そしてついに五十話突破・・・
早いものですね。
それではここまで読んでくださってありがとうございます。
これからも頑張りますのでどうかよろしくお願いします。