6.イカレ帽子屋と初戦闘 前編
〜イカレ帽子屋と初戦闘1〜
「あと1人欠けてますよね」
その時計兎の発言にうんうん、とハンプティーとチェシャ猫は頷く。
「あと1人って?」
「あぁ、大抵の場合は僕とアリス、時計兎、チェシャ猫ともう1人のメンバーで行動していたんだよ」
アリスの問いにハンプティーはにこりと答えた。
「どんな人なの?その人」
「えぇっとねェ・・・イカレ帽子屋」
「は?」
チェシャ猫の答えにアリスはつい、素っ頓狂な声をあげる。
“イカレ”帽子屋・・・間違いなくそう言った。
「だから、イカレ帽子屋です。
名前は帽子屋。イカレ帽子屋というのは他国での通り名なんですよ」
時計兎の説明だ。だが、なぜ“イカレ”なのだろう。
「・・その心は?」
「イカレてるくらいに強い・・・ってことだよ。僕たち武官の中では最も強いくらいだから」
そんな人と今から会うなんて大丈夫だろうか。とアリスはすこし心配になる。
その心配事はしばらくしてから的中してしまうのだった。
不意に、前を歩いていたハンプティーの歩みが止まった。
思いもよらなかったアリスは止まれずにハンプティーにぶつかってしまう。
「うっ!どしたのハンプティー」
アリスはぶつかった鼻先を押さえる。
ハンプティーはごめん、と謝ってからある方向を指差した。
「着いたよ、ここが帽子屋の家、というか本家だ」
意外にもレンガ造りの普通の家である。
怖そうな印象だったのでもっと雰囲気のある洋館などをイメージしていたアリスにとって予想外だった。
「あの、本家って?」
「武官は本来、城下町や城内の武官宿舎で暮らすんですよ。
けれど、それとは別に実家など離れた場所に自分の家を持つんです。それが本家です」
丁寧に時計兎は説明してくれた。
アリスも村に自分の家を持っている。あれが、アリスの本家ということだ。
「じゃぁ・・・呼んでみようかァ?おーい、帽子屋ぁー」
チェシャ猫がそう呼びかけるが反応ナシ。
「いないのでしょうか。珍しいですね」
「この辺りを探してみよう」
その2人の提案にアリスは頷いた。
「でも、アリス。アリスはもちろん」
「わかってるわよ。ここで待ってろ・・・でしょう?」
よくおわかりで。と時計兎が目を細める。
方向音痴、記憶喪失のアリスは無闇に動かない方がいいのだ。
迷われたらそれこそ迷惑になるのだから。
「でもぉ、俺は探さないよォ?面倒臭いしぃ・・・それにアリスの傍に居たいからねェ」
チェシャ猫は欠伸をしながらそう言うと、
アリスに腕を絡めてくる。アリスはその腕を振り解いた。
「ダーメ。チェシャ猫も探して、お願い」
「ハァ、しょうがないなァ。アリスの上目遣いには適わないしぃ。わかった、探せばいいんデショ?」
頭をポリポリと掻くと、チェシャ猫は腰掛けていた体を起き上がらせる。
「じゃあ行こうか。アリス、留守番頼むよ。帽子屋が戻ってきても待ってて」
そう行って、3人は探しに行った。
(また・・・・置いてけぼりか)
アリスはわかっているけれど、すこし眉をよせる。
「どうした、何を怒っている」
「そりゃ怒るわ。私ばかりいつも置いてけぼり、よ?
記憶無かったとしても、ちょっとは頼ってくれたって・・・・って誰!?」
時計兎たちとも違う、低い声。
ノリで思わず質問に答えてしまったが、アリスは反射的に前に飛びのいた。
おそるおそる後ろを向くと、そこにはハンチング状の帽子を深く被った青年が立っていた。