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50.白雷と師匠の教え

 〜白雷と師匠の教え〜


金属のこすれ合う音。そして、式の音。


「ふっ!」


クローバーは刀で、ビショップは錫杖で。

攻防、どちらが優勢なのか、どちらが劣勢なのか分からない。

ただ戦っていた。


「オン ベイシラマナヤ ソワカ・・・・式、白雷!」


ビショップがそう唱えると、式紙から雷が発した。


「(威力が、上がっている!)」


驚きを努めて顔に出さないようにしながら、クローバーは白雷と対峙する。

まだ2人が誇称の国にいたときは手合わせをしていたが、あの時より威力は上がっていた。


「(それに、速さも・・・)」


光の速さで駆ける雷。

昔の手合わせではこれをくらって気絶したこともある。

それくらい、威力が強い。


ビショップは「さて、どう切り抜ける?」と意味を込めほくそ笑んだ。

反撃してやりたいのはやまやまだが避けるだけで精一杯なのだ。

しかし、このまま避けていても何も変わらない。


ふと、クローバーの頭の中に昔のことがよぎった。


―――『もし自分より強い敵と戦うことになったらどうする?』


懐かしい師匠の声。

2人きりのとき、唐突にそんなことを言うものだから、クローバーは少し戸惑ったのを覚えている。


『逃げる?それとも命乞いをする?』


幼き自分クローバーはどう答えたろう。

師匠の問いかけに、どう返事をしただろう。


『それがしはにげる気も、命ごいもせぬ!』


『そう、じゃあどうする?』


『たとえ勝ち目がなくてもたたかう!』


この答えに師匠は言ったのだ。

その考えは命を無駄にするだけだと。

でもクローバーは逃げ出すことや、諦めたりすることが嫌いだった。

クローバーにとっては死んだら死んだで仕方のないことだし、

逆に戦って死ねることは武士にとっては光栄なことだと思っていた。


『でも黒。よく考えてごらんなさい。死んでしまったら何もできない』


師匠は黒、と愛称で呼んでから目を伏せた。


『死んだらもう二度と誰にも会えない。こうして私の授業を受けることも、ね』


師匠はそう言って、いじわるそうに笑った。

何もできない。その言葉が当時のクローバーにとても重くのしかった。


『それでも黒は死を受け入れることができる?

 もう一生愛しいと思ったものと話せないし、触れることもできない。

 それって、とても悲しいことじゃないの?』


『・・・かなしい、こと』


死は悲しいもの。

死んだ本人だけでなく、残された友達や家族さえも悲しみに浸ってしまう。


『だから強い人と戦ってもいいけれど死を受け入れるのは止めなさい。

 最後の最期までもがいてもがいて生きる道を選びなさい』


最善の努力をつくしたうえで死んでしまったらそれは仕方の無いことだけれど、と苦笑まじりに付け加えた。

生に執着し、必死に生きようとして足掻くことは決して恥ずかしいことではない。

そう師匠は言ったのだ。


『そうだクローバー。代わりに死ななくて済むような方法教えてあげる』


『え・・・?』


『でもこれは毘沙門たちには内緒ね。あの子達は、死を受け入れるなといっても受け入れてしまうから』


小さく、しかししっかりと言われた言葉を思い出し、クローバーはゆっくりと刀を構えた。

師匠の言ったその教え。

今ここで使わなければ、どこで使えというのだろうか。


「っ!?」


刀を構えた姿勢で、まっすぐ、ビショップに突っ込んだ。


流石にビショップもこれには予想外だったのか目を見開く。

だがすぐに白雷をクローバーに落とした。


「ぐっ!」


クローバーは苦しさからうめく。

ビショップのその苦しげな声を聞き、無意識的に気を緩めた、が。

刹那、横から刃が迫った。


「しまっ・・・!」


式を発動させる暇もなく、錫杖で防ぐ暇もなく、その刃はビショップの肩を斬り裂いた。


式術は基本的に誰にでも使えるが、上手くなるには生まれ持った天性が必要だ。

それと同時に、本人のとてつもない精神力・・・集中力がなければ長時間使うことも上手く使うこともできない。


ビショップの集中力は半端じゃない。それこそトップクラスといえる。

その集中力が凄いからこそ戦闘にも実用でき、強いのだ。


だが今、不意をつかれたことによって集中力が切れた。

つまり、式の効力も消えたのだ。


遮音結界の式も切れ、水を打ったかのように急に騒がしくなる。

白雷もまた、フッと掻っ消えた。


「まさか・・・真直ぐ突っ込んでくるとはな・・」


ビショップは自身の肩を押さえ呟いた。

一方クローバーは僅かに口角を上げる。

白雷のダメージもかなりあったはずなのに、だ。


「これは師匠が言っていたことだ。

 致命傷を喰らって死ぬより、緩い攻撃を喰らってでも相手に反撃し、生きること。それが師匠の教え」


確かに白雷の威力は上がっていた。

けれど、強くなったのはビショップだけでない。

クローバーもまた、ビショップと同じように強くなったのだ。

だから、白雷をひとつ喰らっても、以前と違い倒れたりしなかった。


「なるほど。肉を切らせて骨を断つ・・・あの人らしい考えであるな」


苦しげに笑い、こう漏らしたビショップの視界に何かが映った。

白い狼の形をした、何かが。


「っ・・あれは、」


目を見開いて、その狼を見る。

クローバーも不思議に思い、狼を見る。

やがてボウンと音がするとどこにも狼はおらず、白い式紙のみが場に残った。

ビショップはその式紙を握り締めると口を開いた。


「悪いがこの勝負、お預けだ」


そう言うが早いか、タッと駆け出す。


「なっ、」


クローバーも急いでビショップの後を追った。


「(あれは式神の術か・・・)」と心の中で考えながら。

どうでもいい豆知識。


幼き日のクローバーは師匠から「黒」と呼ばれていました。

幼き日のクローバーは言葉遣いが幼い。


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