小話3 恋の病に薬なし(バレンタイン記念)
バレンタイン。
日頃つつましく想いを秘めた女性が愛をこめて想い人にお菓子をささげる日。
とはいえそれは誇称の国限定の行事であって、他の国では少し違うのだ。
黄昏の国も、誇称の国のバレンタインとは少し違う。
「と、誇称の国では男女はそういうふうに2月14日を過ごすものだ」
ただいま会議室にて、ナイトメアと王とその近衛と補佐の男性陣でお茶会が開かれていた。
そんな中「時に、」とクローバーが誇称の国でのバレンタインの話をしたのである。
そして今に至るわけだ。
「へぇー、そうなんや。この国では、お菓子だけを贈るってワケじゃあないもんなぁ」
ダイヤはクローバーの話を聞いて、うんうんとうなずいた。
帽子屋の入れた紅茶と同じ色をしたソファに座り、腕組みをする。
「カードとか花束とかやな。誇称の国みたいに女の子からだけでもないやろ」
ダイヤはゆっくりと視線を後ろに動かした。
そこには先ほどダイヤが言ったように、花束やカード、綺麗に包装された箱が山積みになっている。
「いやぁ、モテるねェスペードは」
チェシャ猫は猫舌のため、紅茶を息で冷ましつつ呟いた。
山積みとなった贈り物はスペード宛てのものだ。
スペードはというと、その処理に困った様子でため息をつく。
ちなみに贈り物は全てクローバーやナイトメアたちにより安全確認をされ済みだ。
安全確認の仕事が終わった後、スペードがやって来て、いい紅茶の葉が手に入ったからとそのままお茶会が開催された。
毎年恒例の出来事だ。
「モテても、ね」
フゥっとスペードは目を伏せる。
きっと今、彼の頭の中ではアリスのことが思いだされていることだろう。
「そんなこと言ったら罰が当たるぞ」
「でも、本当に欲しい人からじゃないと意味がないじゃないか。
僕だって貰いたくて貰ってるわかじゃないのだし」
その言葉に少し軽蔑したかのような視線がスペードに集まった。
スペードはしまった、と自分の発言を呪った。
「うっわー、サイテーやな」
「失礼すぎますね、スペード」
「女子の気持ちも考えて欲しいものだな」
「スペードがそんな態度とるからァ、アリスが女子から嫌われるんだよぉ」
「可哀想だ、アリスも女性たちも」
一同に責め立てられ、スペードは言葉を詰まらせた。
ちょっとでも口を滑らせるとこうしていじられる。
噂が広がらないだけマシかもしれないが、それでも後悔の念はやまない。
「し、仕方ないじゃないか・・・そうだ、ハンプティーならこの気持ち分かってくれるだろ?」
唯一自分を責めなかったハンプティーに助けを求めると、ハンプティーは予想していなかったのか肩を揺らす。
「え、えーと」
「どう思う?」
ハンプティーは、期待に満ちた顔で自分を見るスペードに耐えられず、
「うん、まぁ・・・」と言葉を濁しつつ答えた。
しかし、確かに貰えるならアリスから貰いたいのは皆同じだ。
すると、突然コンコンと部屋に控えめなノックの音が響いた。
入ってきたのは、アリスとハートの2人。
「そろいもそろって景気の悪い顔しちゃって。何よ」
ハートは何かを大事そうに抱え室内に入ってくる。
アリスも何かを持っていた。
「アリス、どうしたんだ」
帽子屋の問いにアリスはふっと表情を和らげる。
それから手に持っていた何かを差し出す。
「これ、茶菓子にと思ってね」
皿に乗ったそれはチョコレートクッキーだった。
「これは・・・」
「クローバーから聞いたの。今日は女性から大切な人にお菓子を贈るんでしょう?
皆は・・・私にとって大切な人だからいいかな、なんて」
アリスの笑みに皆も顔を綻ばせてクッキーを食べた。
(・・・あまい)
サクッとしたクッキーはほどよく甘く美味しかった。
と、その時。
ハートが顔を真っ赤にさせながらハンプティーに、大事そうに抱えていた箱を突き出した。
「えっと?ハート、何かな?」
「こっこれ、作って余ったの!だからあげる!もったいないしっ」
あーぁ、とアリスは呆れる。
あれほど予行練習と言ってアリスを巻き込んでまで、可愛らしくチョコを渡そうとしていたのに。
恥ずかしさからこのようなことを口走っている。
ハート自身もその発言を悔やんだように表情を歪ませる、が。
ハンプティーは箱を開け、チョコをゆっくりと口に運ぶ。
「おいしいよ、ハート。チョコ、ありがとう」
ハートはその言葉にさらに真っ赤になり、照れを隠すかのようにアリスのクッキーをかじった。
微笑ましい、と思うと同時に、帽子屋はサラリとそれをやってのけるハンプティーをある意味で尊敬した。
その気がないのに、そういうことができるなんて、と。
「あ、そういえば。アリス、これを」
クローバーが思い出したように声を上げる。
それから袖から白い箱を出して、蓋を開けた。
そこには、花をあしらった練りきりが入っていた。
「あら、貰っていいの?」
クローバーは無言で頷いたのを見て、アリスはひとつ練りきりをつまむ。
「わ、凄い可愛い。器用なのねクローバーって。食べるのが勿体無いわ」
「姉から教わったことがあってな。・・・この国では、バレンタインを男から送っても良いのだろう?」
アリスはその発言に驚きつつ、ゆっくりと微笑んだ。
それから、あ、と声を上げる。
「クローバーといい、誇称の国の人ってこういう行事を大切にするのね」
そのアリスの言葉に首を傾げる。
それは、どういう意味だ?
まさか、と思い至ってからダイヤが口を開いた。
「アーリスちゃん。それって、もしかすると・・・」
「ビショップからね、苺クリームの入ったお饅頭が届いたの。・・・あっ他にもキングからカスミ草が」
カスミ草の花言葉「清い心」というカードとともに贈られてきた。
こうしてはおられない、とクローバー以外の男たちはアリス(とハート)に贈るための物を何にしようか思案する。
そんな中、ハートだけがまだ顔を染めながら呟いた。
「まさに男たちもあたしも
恋の病に薬なしって感じね・・・」
黄昏の国にもバレンタインが、流行の兆し、だ。
――2月14日。
はい。
よくわからないグダグダっとした話になりました・・・
とりあえず
ちゃっかりなクローバーさん
贈り物をするビショップとキング
赤面するハート
モテるスペード
いじられるスペード←
がかけたので満足です。
ただ全部詰め込んだら訳分かんなくなりました(笑)