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48.黒い瞳と真紅の双眸

 〜黒い瞳と真紅の双眸〜


ジョーカーは自分の腕の中にいるアリスを見て、ため息をつく。


信じてもらえなかったのは仕方ない。

自分でさえ、自分のことを怪しいと思う。

ただ、黒魔術の影響を受けているのは気になる。

自分も、あの黒魔術を避けようと思えば避けれたはずなのに。


ジョーカーはそっと目を伏せる。

そして、先ほどの状況を思い出していた。


スペードがあの炎を避けたがらなかった。

アリスを炎から守ろうとした。自分の身をていしてまで。

これが人間の自己犠牲と愛情か。


そう思い、息をつく。

クイーンはまたすぐ自分たちを見つけ出すだろう。


見つかるより前に逃げなければ。

今はただ、外に逃げることだけを考えて、アリスを起こさないように走る。

ジョーカーは雨が降っている外を見て、眉をしかめた。




ザアァァ・・・という雨の音で、アリスは目を覚ました。

やけに近くで聞こえる雨音と、湿った土や、木々の匂いがした。

ゆっくりと目を開けると、そこには自分を見る黒い目がある。


「っ!ジョーカー?クイーンはっ・・・」


辺りを見渡すと、そこは城内の庭園。

今はどうやら木の下で雨宿りをしているらしい。


「クイーンからは逃げてきた。全く・・・だから逃げろと言ったのに。

 黒魔術は普通は一度捕らえられたら逃げられない。使う方も、使われる方も。だから、厄介なんだ」


どこか棘々しさのある口調。

しかしよく見たら、アリスには寒さを考慮してか、ジョーカーのマントが被せられていた。


「でも、私は・・・」


「でも、何だ?止めるつもりか?クイーンを。馬鹿らしいことは止めて、深窓の姫でもしておけ」


「何で、そういうこと、言うの?私はクイーンを止めたい。

 だってさっき、クイーンの本心が聞こえた。助けてって・・・」


その言葉にジョーカーは目を剥く。

黒魔術の使用者の本心が聞こえるなんて、ない。ただの人間にはあり得ない。

けれど、アリスはただの人間。だとしたら。


そこまで考えてから、アリスの胸元の蒼いペンダントに初めて気付く。

あれは、とジョーカーはアリスの記憶が無かったことを思い出した。

そういうことだったのかと。


そんなジョーカーの心境を知ってか知らずか、アリスは口を開く。


「私の道は、私が決める。今までみたいに、色んな真実に振り回されたりしない。

 ちゃんと事実を知った上で、自分自身で道を切り開く。どんなに困難な道でも諦めたりしない。

 だから、だから私は、助けてと願ったクイーンを止めたい、いえ、救いたい」


アリスは立ち上がると、ジョーカーにマントを返す。

ジョーカーはマントを羽織るとこう言った。


「・・・誰にも、頼らないつもりか?」


「そう、かもしれない。今まで散々迷惑をかけてきたし、これ以上迷惑をかけたくない。

 個人の勝手な願いで振り回していいようなものじゃないと思うもの」


「今更」と、ジョーカーは呟く。

そして、何か吹っ切れたかのように、マントを羽織っていた手を止める。

それどころか、マントを脱ぎ捨てた。

ジョーカーは木に掛けておいた鎌の刃の部分を眺め、なぞりながら言った。


「アリス・・・俺は構わないが、せめて、“こいつ”だけは、信じてくれないか」


「え?こいつ?」


こいつというのが何を指しているのか分からず、アリスは反復する。


するとジョーカーは、自身の胸ポケットから1つの指輪を出した。

ガラスのような透明な宝石のついた指輪。

指輪を左手の中指にはめると、指輪を擦るように右手で触れる。


「何を・・・?」


「まぁ、良いから、黙って見ていろ」


ジョーカーはそう言うと、木の下から出て、雨を全身に浴びた。

その瞬間、アリスは瞠目した。

何故なら、変わっていたから。


「スペー、ド?」


黒い髪は金の髪へ。黒い眼は真紅の眼へ。指輪のガラスの宝石は、紅い宝石へ。

染まるように色が変わっていく。


スペードは悲しげな瞳で、アリスを見つめた。


「アリス・・・」


切なげに、かすれた声が発せられた。


「ど、どうして・・・?」


「アリス」


驚くアリスに、またスペードはアリスの名を呼んだ。

その声色に、アリスはそっと身体を震わせる。


「僕じゃ、駄目なのかな・・・・?」


悲しそうに、消えそうな声で言葉を発す。


「僕は、アリスを助けたい。アリスに頼って欲しい。アリス・・・僕じゃ、駄目?」


アリスは戸惑って何も言えない。

答えようとしても、何を答えていいか、分からない。


「・・・好きだよ、アリス」


「!?」


「僕は皆に『王』だから、守ってもらってる。助けてもらってる。

 だからそれと同じで、僕も、皆を助けたいんだ。

 僕は、好きだよ。黄昏の国も、皆も、それにアリスも。

 それら全て、僕の手で守りたい。全て、守れるなんて思ってはいないよ。

 だけど、今までみたいに、最初から何もせず諦めることは、もう、絶対したくない」


スペードは、天を見上げる。雨が降って、しばらくは止みそうになかった。

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