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小話2 good night(注意!)

 

この話は、アリスキャラを使った遊びのようなもので

本編とは何一つ関係ありません。

そしてこれは「死ネタ」です。


以上が苦手な方は戻ってください。

OKな方だけどうぞ。

ちなみにルークさんとナイトが登場します。


−good night−


自分自身ではいつも通り歩いているつもりだけど

身体がフラフラしてちゃんと歩けない。


歩いても歩いても辿りつけないもどかしさに苛々するけど、

やっとの思いで目的地に着いて、ノックもせずに扉を開いた。


そこは、幼馴染であるナイトの家。

ナイトは家族から離れて、一人森の近くに住んでいる。


いきなり開いた扉、そして入り口に突っ立っている私を見て、ナイトは翡翠色の目を少しだけ見開いた。


「絨毯の上、血が染み込んだら落としにくい。だから外で話そう」


ナイトは一目見ただけで何か事情を察したらしい。

さっきは絨毯に落ちた血は落としにくいとか言ってたくせに、

今は自分の服に血がつくのもかまわず、よろよろと歩く私の肩を抱き、外まで連れてってくれた。


そして、無造作に並べられた丸太の上に私を座らせる。


改めて心を落ち着かせると、鼻をつく鉄の臭いがした。


毎日着ている近衛の制服が、見るのも嫌になるくらい血で濡れている。

この血は、返り血と自分の血の両方。

正直、意識が飛びそうなくらいの痛みにも慣れてきた。


私はこんな致命傷を負ったことが無かったから、

痛みには免疫がついてると思ってたけど、そんなことは無いと思い知らされた。

本当の痛みは、頭がくらくらする。

そして、痛いはずなのに、思考だけはやけにクリアになるということも

今日、初めて知った。


「で?」


ナイトがそう聞いてくる。

私は仕事でヘマした、とだけ答えた。


確かに私とナイトは恋人同士、という関係にはある。

だけどなんで、どうして気力を振り絞ってでも来たのだろうか。

自分自身、尋ねたい。


「この傷のせいで死ぬなぁって思ったから、クイーン様に許し貰ってここに来た」


クイーン様は手当てしようと何度も言ったけれど私は首を振った。

どうせ手当てしても助からない。

だったら、最期に自分のしたいようにしたかった。


近衛になってから、私の死に場所はクイーン様のお傍だとずっと信じていた。

だけど、実際はこうしてナイトの傍にいる。

自然に動いた足は、私をここへ導いた。


「何で、無理してまで俺のところなんだ?」


「わかんない」


視線を落とすと、未だお腹の血が止まっていないのが見えた。

けど、目が霞んで、視界がぼやける。

息をするのも疲れてきて、もうそろそろかな、なんて思う。


「でも、死に直面したとき、真っ先に思い浮かんだのがナイトのことだったから」


「そうか」


「うん」


どうして、ここに来てしまったのだろう。

どうして、この男を思い出したのだろう。

どうして、クイーン様の傍で死を迎えなかったのだろう。

どうして、この男と出逢ってしまったのだろう。


出逢わなければ、こんなにも胸がいたくなる、なんてことなかったのに。


でも、出逢っていなかったら、こんなに穏やかな気持ちで死を迎えることなんてなかった。

あんなに毎日が、飴玉みたいにきらきらと光ることもなかった。


なんて、乙女チックなことを考えてみる。

わたしは男勝りだったから、町娘の子たちみたいにおしゃれも人形遊びもしなかった。

だから、最期くらい女の子っぽいこと、考えても良いよね。


騎士である以上、どこでも死ぬ覚悟はできていた。

だけど、その覚悟を鈍らせたのはナイトなんだよ。


「ね、ナイト」


そう呼びかけると、ナイトは視線だけこっちに向けてくる。


そんな全く持って意味ももたない、何気ないことも全て愛しいと思える私は、

どうやら自分で思っていた以上に目の前の男に惚れてるらしい。


「私の世界は、ナイト中心にまわってた。

 一日だって会えなかったら、つらかったよ」


「・・・・・」


ナイトは何も言わない。黙りこくってるだけ。

それでも私は言葉を紡ぐ。

自分でも信じられないくらい、言葉がスラスラとでる。

だって、最期くらい素直になりたいから。


「今、私が死んでも」


あぁ、駄目だ。


「ずっと好きで」


目の前の景色が霞んで、頭が白い霧みたいなのに覆い尽くされていく。


「いて、くれる?」


最後のそれは、言葉になっていたんだろうか。



私が倒れる間際に見たものは、

青い空と白い雲、視界の端に捕らえた緑の木々、

そして、目を伏せたナイトの姿。


これが、私の最期なんだ。


痛みがなくなったら普通は元気になって体力も回復していくのに、

今はお腹の痛みがなくなった途端、力を奪われたみたいにこうして倒れてしまった。

でも、痛みはもうない。

ただ、もっと生きたかったなあ、という胸の痛みだけはなくならなかったけど。


「ルーク」


私が、温かくて優しい白い霧にくるまれているときに、ナイトが私の名前を呼んでくれた。

あまりの心地よさに、目からあったかい涙が零れ落ちる。


「good night」


その声にいざなわれるように、私は目を閉じた。


ナイト、この世界の誰よりも貴方が好き。

前は中々素直になれなくてごめんなさい。


確か私の初めてのキスを奪ったのも、ナイトだっけ?

あまりに突然で、まだ幼馴染だと思ってたときにされたから、はっきりとは憶えてないや。


そういえば、一度も私からキスしたことって無かったよね。

だって恥ずかしかったから、できなかったんだよ。


ねぇ、ナイト。ゆっくりでいいから、迷わずちゃんとこっちにきてね。

そしたら、私からキスしてあげる、から。


だから、悪いけど、あなたよりちょっと早く、



おやすみ、なさい。



最後に近づくにつれて、

ルークの一人語りも乙女っぽくなる感じを

味わってほしくて書いてみました。

いわば習作です。


これが40話記念とか言ったら、怒られる気がします。

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