46.同属嫌悪と火の道化者
〜同属嫌悪と火の道化者〜
カツン、と靴音が響く。
誰一人としていない、聖堂で。反響の国の城にあるこの聖堂は、あまりに静かでたまらない。
まるで、別世界のようだ。
「着いた・・・けど、裏の階段ってどこ?」
そろりと辺りを散策する
周りが静かだと思わず自分も静かになってしまう。
少し薄暗い聖堂で、ステンドグラスがただ1つ目立っている。
そのステンドグラスのそばには扉があり、アリスはそこに向かい、階段を探そうと思っていた。
けれど、その刹那。
ガッシャンと音がし、何かがステンドグラスを突き破って転がり込んできた。
アリスは咄嗟にトンファーを構えるが、入ってきたのが帽子屋だと分かるとトンファーをおろす。
その帽子屋は傷だらけだった。何があったというのだろう。
「帽子屋!何があったの?大丈夫!?」
アリスがそう呼びかけると、帽子屋は平気だという意味を込めて頭を縦にふった。
ジャリ、と割れたグラスの破片を踏みつつ、誰かが割ったステンドグラスをくぐって入ってきた。
「ナイト・・!」
ナイトは剣を構え、殺気を放ってアリスたちに近付く。
ナイトも帽子屋同様、体のいたる所に傷を負っており、帽子屋と交戦していただろうことがすぐに分かった。
「反響の国の城で、キングの膝元でこんな騒ぎを起こしたナイトメア。
それは排除せねばならない・・・覚悟しろ」
こうナイトは静かに告げた。帽子屋も大剣を構え、立ち上がる。
アリスは困惑しながらも2人を見る。どうしたら良いのだろう。
「俺も負けるわけにはいかないんだ」
帽子屋と、ナイトが激しくぶつかり合う。
キンッと、刀のぶつかり合う音が聖堂に響いた。
アリスは呆然とその成り行きを見守ることしかできない。
「っ!!?」
突如アリスは禍々しいものを感じた。頭で考えるより早く体が横に動く。
さっきまでアリスが立っていた場所に剣が下ろされていた。
そこには兵士がいた。操られし兵士。
兵士はアリスに剣を向け、襲い掛かった。
それを見たナイトは交戦中にも関わらず叫ぶ。
「止めろポーン!!騎士の風上にも置けない!
お前たちの主はクイーンでなくキングだろう!気をしっかり持て!」
直属の上司に怒鳴られ、一瞬兵士は気が戻ったのかピタリと動きが止まる。
しかし、またすぐにアリスに剣を振る。
ナイトはハッとして、帽子屋を振り切りアリスを助けようと駆けようとする。
「待て、戦闘中にどこに行く気だ?」
けれど、帽子屋がナイトの肩を掴み、そう言った。
ナイトは少し煩わしげに帽子屋に振り返る。
「どこへ行く?そんなの分かりきっている。アリス=リデルの所だ。俺の部下を止める。
イカレ帽子屋、貴様は助けないのか?とんだ人間だな。同じ国の人間だというのに」
「いや、俺はアリスを見捨てる訳じゃあない。ただ、俺が手出ししなくともアリスは自分で何とかする。
武官を、舐めてもらっちゃ困る。俺は、アリスを信頼してるんだ」
そう言い切った帽子屋とは対称的に、ナイトは眉間にシワを寄せた。
この男と自分は合わない。そう感じたのだ。
アリスがトンファーで兵士を倒すのを見て、ナイトは軽く鼻を鳴らす。
波長が合わないのだと、悟った。
そのとき突然バンッと音がして聖堂の扉が開いた。
そう思うより早く、アリスと戦っていた兵士が倒れた。一瞬の出来事。
血が、跳んだ。
「ポッポーン!何が・・・まさか、アリス・・な訳はないか」
ナイトはアリスを見てから呟く。
アリスはダガーという刃物を持ってはいるが使っていないことは明らかだった。
だと、したら。この兵士を攻撃したのは、ダレ?
「誰だ」
帽子屋が低く問う。
その疑問を投げかけられた人物は、この場に不自然なほど馴染んでいて、気配も薄い。
まるで、最初からいたかのようだった。
全身をくすんだ黒いマントで覆った人物は、兵士たちの血がついた鎌を下ろすと、マントのフードを上げた。
警戒して、アリス、帽子屋、ナイトはそれぞれの武器を構える。
「道化者、ジョーカーだ」
ジョーカーと名乗った人物は、黒かった。
マントもそうだが、髪も目も全て漆黒の色だ。
その黒真珠のような瞳はアリスを見る。
「安心しろ。用があるのはアリスのみだから」
そう言って、その男はアリスに近付く。アリスは何故か逃げない。
怖いとも、恐ろしいとも感じず、ただ、黒い髪と目に意識は惹かれていた。
それからアリスの手を掴むと、ジョーカーは聖堂から出て行く。
アリスはされるがまま、ジョーカーに引きずられるようにして、ジョーカーと共に出ていった。
「アリス・・・!」
帽子屋がジョーカーをおいかけようとするが、それをナイトが阻んだ。
「戦闘中にどこへ行く?」
先ほど、帽子屋の言った台詞をそのまま言い返すナイト。
帽子屋はフゥ、と息を吐いた。
「負けん気、強いんだな」
「褒め言葉として受け取っておくぞ、イカレ帽子屋」
ジョーカー。帽子屋はどうしてか、ジョーカーがアリスに危害は加えないと心のどこかで確信していた。
それは何でだろうと考えつつ、帽子屋は、大剣を構えた。
ひさびっさの更新すいませーっん・・・
アリスの下書きノート二冊目突破しそうです。
このペースで行くと50話行きますよ(汗)
ナンテコッタイ。