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43.消えた記憶と曇天の空

 〜消えた記憶と曇天の空〜


アリスは部屋につくと、リデルをベッドの上に寝かせようとした。

しかし、突然、リデルがアリスの腕を掴む。


「なっ・・・」


強く引っ張られ、アリスはバランスを崩す。

すると、リデルの顔が目前まで迫った。


「リ、デル?」


何が、起こったのか。あんなに流れていたリデルの血が止まっている。

というよりむしろ、拭き取られたかのように血と傷が綺麗さっぱり消えていた。


「な、にが・・起こって・・・?」


「アリス」


リデルはアリスの名を呼び、まっすぐ真剣にアリスを見た。


「今から、話すこと。信じられないかもしれないけど、聞いてほしいの」


空の色をした蒼い瞳が、ただ、アリスの目を見つめる。

―――なんて、綺麗な色、なのだろう。

まるで、サファイアの宝石みたいだ。

アリスはリデルの目の色に見とられながら、コクリと頷いた。



「まず・・・私の血がどうして流れてないかは・・・どう言ったらいいのか・・」


リデルは、アリスが混乱してしまわないように、気を使ってくれているようだった。


「リデル。そんなに気を使ってくれなくても平気よ。

 例え、その話が理解できなくても本当のことだと信じるから」


「そう、ありがとう。じゃあ言うわね。


 私は、人じゃないの」


アリスはその言葉に驚き、というより驚愕を隠せなかった。

リデルは人じゃない。人間ではない。獣人でもない。だったら、何?


「だから血も流れない。さっき斬られたときの血は他人から人でないと悟られるのが嫌だったから、

 ちょっと細工したの。あなた以外から、私のことを知られるのは避けたかった」


ごめんなさい。と謝られる。

今も兵士と戦っているダイヤと、ハンプティー、チェシャ猫に対する

リデルの懺悔したい気持ちがはっきりと伝わってきて、アリスは思わず顔をそらした。


「でも、リデルはどうしてそのことを私だけに教えてくれるの?

 それに、人じゃないとしたら・・・・あなたは、何なの?」


そう聞くとリデルは目を伏せ、静かに話し始めた。


「・・・黄昏の国に1人の女武官がいたわ。その武官は交渉のために、反響の国へ使者として行った。

 するとその国の皇帝に見初められ、求婚されたの。その武官は、祖国のため、承諾した」


アリスはハッとしてリデルを見る。その話は、アリスが今まで聞かされた、自身の話だったからだ。

聞いたことのある、聞き覚えのある、1つの物語。


「そして結婚式当日。武官は、皇帝の姉に呼び出され、部屋に向かった。

 その皇帝の姉は皇帝のことを心から愛していた。故に武官が憎くて憎くてたまらなかった。

 なので自身の使える禁呪、相手に大きな害を与える黒魔術を使い、武官を殺そうとしたわ。

 けれど、殺せば後々が面倒なことになる。だから、殺すまではしなかったものの、

 黒魔術の中の忘却魔術で武官の記憶を奪い、そして皇帝の補佐官にある術を使わせ、

 黄昏の国と厄介なことにならないように偽造工作させたの。それで」


「ねぇ」


アリスはリデルの顔を見ずにそう言った。リデルのした話はあまりにも同じだった。


「皇帝の補佐官の使ったとある術って、まさか・・・式術?」


リデルは頷いた。これで、確信できる。

この話の、1人の女武官とは・・・


「その武官の名は、アリス=リデルよ」


ゆっくりとアリスは目を閉じた。

リデルの言葉がすんなりと、心に染みるように入ってくる。

アリス=リデル。その名前が意味するもの。


「私は、黒魔術で分離した、アリスの記憶なの・・・―――」


薄々気付いてはいたものの、やはり驚き、目を見開いた。




「ジョーカー。この騒ぎを見てくれ」


マントを羽織ったスペードは、反響の国の城の前で目を細めた。

大騒ぎになったその場所を見て、驚くことしかできない。


『あぁ、凄いな。これはまぁ、1000年前の世界大戦よりは当然劣るが、中々楽しそうだ』


1000年も前から生きていた異形の者ジョーカーに対し、スペードは呆れたような表情をする。

この騒ぎも、楽しむようなものでもないというのに。


「ナイトメアが来てる可能性が高いな。・・・ジョーカー、包括ほうかつしてくれ」


『分かった』


ジョーカーはそう同意した。刹那、スペードの体を闇が覆う。

おどろおどろしくスペードを取り巻く。


『だがスペード、気をつけろ』


「?」


『雨が、来るぞ』


ジョーカーは曇ってきた空を感じ、そう告げた。


これから起こる出来事の大きさを語るように、曇天の空は黒味を増していく。

スペード、否、ジョーカーは怯えるかのように空を見上げた。


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