42.赤い戦慄と窮地の助け
〜赤い戦慄と窮地の助け〜
リデルは転がりつつも何とか刃物をかわし、すぐに立ち上がる。
状況を判断しようと視線を辺りにめぐらせた。
すると、そこには剣をかまえた兵士がいた。
「なっ・・・どうして・・・・」
何故たかだかメイドに襲いかかるのか。
アリスもリデルも驚きに駆られていた。
「・・・・・」
兵士は無言で、2人に向かい剣を振り下ろした。
「っ!!」
危ない。けれど兵士はたった1人。これくらいなら振り切れる。
「アリス!走って!!」
リデルは後ろに、アリスのいる方へ叫ぶ。だが、返事は無い。
リデルは不思議に思い、そっと後ろへ振り返った。
「アリスっ!?」
激しい糾弾。刃が風を切る音。戦慄が、はしる。
何とか、アリスは剣を避けていた。でも、駄目だ。
前の兵士の剣は避けたがアリスの後ろ。剣をかまえた兵士がきた。
アリスは目の前の兵士にいっぱいで、それに気付いていない。
たとえ気付いたとしても、今からでは避けれない。
マズい。リデルは本能的に、そう感じていた。
「アリスっ!!!危ない!!!!」
「え?」
肉を切るような音が、やけに生々しくリアルに聴こえた。
赤い。目の前が、リデルの目の前が赤く染まる。
自分が。自分が、紅い。アリス=リデルから、血が流れる。
剣が、確実に、リデルの胸を貫いた。アリスを庇って。口からも血があふれ出す。
赤、紅、朱、あか、朱、赤、あか、紅。あかい、わたし。
アリスは目を見開き、リデルを見た。
「リデル・・・?リデルっ!!」
ガシャガシャと金属のぶつかり合う音がした。
それは兵士の鎧の音。兵士が集ってきているのが、言わずとも解かる。
どんなに解かりたくなくとも、どんなに信じたくなくとも、それが事実である限り、真実だ。
「あっ・・・」
目の前の兵士が、剣を振り下ろした。
アリスは血まみれのリデルを抱きしめ、目を瞑った。歯を食いしばって。
このまま、2人とも、死を迎えてしまうのか。
死ぬのは嫌だ。まだ、何もしていないのに。アリスがそう思ったときのことだ。
突如、アリスの近くで鈍い音がした。アリスは困惑しつつ目をゆっくりと開ける。
そこにいたのはこぶしを握りしめたダイヤ。
アリスに切りかかろうとしていた兵士は、ダイヤによって吹っ飛ばされていた。
フゥと息をつき、ダイヤがアリスに振り向く。
「まったく・・・女のコに手をあげるなんて、どんな教育されとんねん。
アリスちゃん、大丈夫やった?そっちの子は・・・どっからどう見ても平気そうやない・・・な」
ダイヤはリデルを見て顔を歪めた。
「アリス!」
その声に反応し、アリスは声がした方を見る。
それは、アリスが思ったとおりの人物・・・ハンプティーだった。
「ザンネンだけどぉ、感動の再会ってワケにはいかないみたいだねェ」
「チェシャ猫!無事、だったの・・・」
チェシャ猫はそのアリスの安心したような様子に
ペロリと舌をだし、指と指の間に小刀を2、3本かまえた。
兵士を殴り飛ばしながら、ダイヤはアリスの目をしっかり見る。
それから
「早く、そのメイドちゃん、手当てしたり!ここは俺らに任しといて」
「そうだアリス!早く行って!僕らを信じてくれ」
「後で十分にハグしてくれてかまわないからねぇ」
そう、ぞろぞろと沸いでた兵士と応戦しながら3人が言う。
アリスはためらいがちに、リデルを背負う。
「みんな・・・ありがとう。また後で!」
その言葉に、ひっそりと生きて会おうという言葉をしのばせ、アリスは目的地の部屋へ向かった。
リデルが、アリスの背でうっすらと目を開け、視線を強くしたことを知ることは無く。