40.武士の白刃と僧侶の錫杖 後編
〜武士の白刃と僧侶の錫杖2〜
その空間には、音が無かった。
人の声や騒がしい足音はするはずだ。しかし騒がしいはずなのに、そこだけは音が無い。
「静かだな・・・」
クローバーは呟いた。自身の声しかない、その場所で。
「当たり前、と言ったところか。遮音結界の式をさせてもらった。
お前は騒がしいのは嫌いであろう?心遣い、感謝してほしいものだ」
そう言ったビショップに対し、クローバーはフッと笑った。
そして次の瞬間、白刃が光る。その切っ先はビショップへ。
だが・・・―――
「甘い」
ビショップの錫状によって、受け止められていた。否、受け止めるというより受け流す。
クローバーが打ち込めば打ち込むだけ、ビショップによって受け流され、衝撃が和らげられる。
「黒羽」
懐かしい名で呼ばれ、クローバーは顔をしかめた。
「何だ・・・毘沙門」
クローバーは毘沙門と呼ぶのをためらうように間を空ける。
その名はクローバーとビショップの本名だ。誇称の国に2人がいたときの、本名。
クローバーは黒羽。ビショップは毘沙門。クローバーとビショップとは、海を渡り、他国に来たときについた字。
「腕を上げたようではあるが、まだ発展途上・・・覚えているか?
誇称の国にいたとき、お前は一度だって拙僧には勝てなかった」
それがどうした、と言わんばかりにクローバーは打ち込む速さを変える。
もっともっと速く、一縷の隙も無くす。
「ほぅ」と、ビショップは感嘆し、クローバーが有利になったと思われた、が。
「ぐっ・・・!!」
ビショップは容赦無く、クローバーの腹に錫状を叩き込む。
クローバーは刀だけは決して手放さず、壁に叩きつけられた。
「確かに凄い。しかしながら、お前は拙僧に勝てん」
「な、んだと?」
クローバーは腹を押さえ、苦しそうによろよろと立ち上がった。
ビショップは見下すかの如く、言い放つ。
「黒羽、師匠が言っていたであろう。お前は剛。拙僧は柔。これが何を意味するか、分からぬか?」
「・・・・・」
クローバーは何も言わない。無表情に、口を開こうとはしない。
「剛は柔より劣っていると。例えば、岩と粘土。
高き場所から岩を落とせば、岩は砕け散る。対照に粘土は落としても砕けることは決して無い」
淡々とそう告げる。クローバーが勝つことは無いと思われた。
しかし、やがてクローバーは口元に笑みを浮かべる。
「何を笑っておられる?」
「そんなもの、決まっている。確かに柔は剛に対して負けることは無かろう。
だがな、粘土では相手に傷をつけることは不可だ。柔は、剛に勝つことはできぬ」
口角をあげて、クローバーはビショップを見る。
毘沙門は腕組みをして、黒羽を見返した。
今回見事にアリス登場してませんね。ごめんなさい。
ちなみについに40話突破しました!!早いものです。
また機会があれば小話書かせていただきます。