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39.武士の白刃と僧侶の錫状 前編

 〜武士の白刃と僧侶の錫杖1〜


「ビショッ「アリス嬢!!」


突然にビショップが振り向いたので、アリスは驚く。ビショップはアリスを引き寄せ、それから伏せた。

アリスも強制的につられて伏せる。状況判断ができていないアリスの目の端に映った物は、

白刃しらはとヘリオドール石のような黄緑色の目、若葉を思わせる新緑色の髪。


「やれやれ、手荒い挨拶であるな」


ビショップはゆっくりと立ち上がり、伏せた弾みで廊下へと投げ出された錫杖を拾った。

相手方は真っ直ぐにビショップを見つめている。


久方ひさかたぶりというべきか、ビショップ」


アリスも立ち上がると、その男――クローバーを見る。

クローバーもアリスに視線をめぐらせ、アリスと目が合う。

だが、アリスは思った。おそらく、クローバーは自分がアリスだとは気付いていない。

何故なら、メイドに変装しているのだ。気付いたら、相当な洞察力だろう。


「今、貴様そこの侍女をアリス嬢と呼んだろう。ということはその者はアリスか」


「・・・そうよ」


アリスがそう頷くと、クローバーも納得したような表情を見せた。


「どうりで、雰囲気が似ていると・・・・その格好も似合っている」


「口説くのはその辺りにしてもらおうか。何の用だ?クローバー」


ビショップが腕組みしながらクローバーに言葉を投げかける。

クローバーは「なっ・・・」と声をだし、うっすらと赤みを帯びた顔でビショップを睨む。


「くっ口説いてなど!貴様じゃあるまいし、この禿げ偽僧・・・!」


「禿げではない、坊主だ!僧侶は皆禿げているものだ。そんなことも知らぬとは」


「貴様は僧侶でなく偽僧だろう!人の姉上に手をだしておいて良くその様なことが言えたものだな!」


「これだから姉好きは・・・未だ姉離れできておらぬのか?悲しいことよ」


「な「あー!もう!言い争いは良いから、話進めるわよ!」


このまま延々と続きそうで、どこまでも幼稚な言い争いになっていく口論にアリスは終止符をうつ。

クローバーもビショップもお互いが昔からの知り合いなので、話しているとどうやら素に戻るようだ。

2人は自分たちの言い争いを恥じたのか、一度静かに深呼吸した。

そして心を落ち着かせたらしいクローバーはやがて口を開く。


「兎に角も、アリスが無事で何よりだ」


「アリス嬢を守ったのは拙僧であるのだがな」


ビショップとクローバーは顔を見合わせてから、アリスを見た。


「アリス、ここから去れ」


「そういうことだな。下に降り、庭から外へ出ると良い。

 他のメイドや執事たちも避難しているものがいるから怪しまれることは無かろう」


2人の顔つきが違っていることに、アリスは気付く。先程のような表情でなく、戦う時の真剣な顔つき。

アリスは少しだけ戸惑いながらじり・・・とゆっくり後退あとずさる。


ビショップは左手に握っていた錫杖を一音鳴らした。

今まで聞いたことのあるような静かで澄んだ音じゃなく、力強く大きな音。


空気が、震えた。


ビリビリとアリスの肌にわずかな振動が伝わる。

クローバーは窓から差し込む光が反射した白刃はくじんを構え、

ビショップは光を受けた金に輝く錫杖を左手に純白の式紙を右手に構えた。


「アリス、行かれよ」


アリスは駆け出す。だがその途中、そっと後ろを振り返った。

戦が、始まる。


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