38.隠れた力と悪夢の原因
〜隠れた力と悪夢の原因〜
彼らは穏便に物事を済ませようと思っていた。
だから城の外壁の所で待ち、城に入る許可がおりるのを待っていたのだが・・・
何を血迷ったか、城の兵士たちがナイトメアたちを襲った。
焦点のあっていない瞳。誰かに、操られている。そう直感した。
無駄な争いを避けるため、逃げようとはするが、町に逃げては町の民に被害が及ぶ。
「ちっ!仕方ない、城内へ逃げるぞ!」
城の中ならば皇帝であるキングたちが兵士を止めてくれるだろう。
自分の兵士をキングが操るはずは無いからだ。
「でも帽子屋!城の門は開いてないよ!」
ハンプティーが槍で兵士の攻撃を受け止めながら訴える。
確かに門は開いていない。ならば・・・強行突破しかない。
帽子屋は大剣、時計兎は鞭、ハンプティーは槍、チェシャ猫はナイフ、クローバーは刀。
・・・この頑丈そうな外壁を壊すことができるのは・・・
「俺しかあらへんやろ」
ダイヤはガントレットで覆われた手で握りこぶしをつくり、力一杯に外壁を殴った。
一瞬の出来事。ピシィッと音をたて、外壁にヒビが入る。思った以上に壁が崩れ、地響きをおこした。
「ダイヤ・・・お主・・・」
「・・・・やりすぎだねェ」
「ですね・・・」
普段は仲の悪いチェシャ猫と時計兎さえも同意するほどの呆れ。
ダイヤはというと何か憑き物でも落ちたかのような良い笑顔でナイトメアとクローバーに振り返る。
「いやぁ、勘弁。溜まっとったもんで。まぁこの壁は事が終わったら黄昏の国費で直せばいいやろ」
ひゅっと振り下ろされた兵士の剣を、ダイヤは軽く避け、崩れた外壁の瓦礫の山に上った。
帽子屋たちもダイヤに続いて城の敷地内に入る。スペードとアリスを見つけ出すために。
アリスは困惑していた。
突然の地響きと部屋の外から聞こえる怒号。どうしたら良いのかすらも分からない。
「アリス嬢!」
突如、ビショップが派手な音をたてて部屋に入ってきた。
アリスは天の助けとばかりにビショップを見るが、ビショップはアリスの手首を掴んで走った。
「え、ちょっ・・・ビショップ、どうしたの?何があったの?」
驚きながらビショップに問い詰める。ビショップは未だ走りつつもアリスの問いに答えた。
「少し厄介なことになったのでな。黄昏の国の数人の武官がこの城に来たのだが・・・
クイーンがその者たちを追い返そうとしておられる。この騒ぎに便乗し、アリス嬢を逃がす」
アリスは目を見開いた。黄昏の国から、武官が来たなどと、予想もしていなかった。
第一、わざわざビショップに逃がしてもらう必要だって無くなる。
「それなら、私がその人たちと合流した方が良いんじゃ・・・」
「馬鹿を言いなさるな。こんな騒ぎを起こした者をキングが逃がすわけ無かろうが。
アリス嬢を連れているならば尚更な。それに・・・―――」
不意にビショップは言葉を途切れさせた。
握っていたアリスの手を放して。それだけでアリスは悟った。
その者たちと合流してしまうとより明瞭にビショップが手引きしているとバレやすくなる。
前を歩くビショップの背は、どこか苦しそうな、悲しそうな、虚無感が漂っていた。
ガントレットとは手甲のことです。
手甲とは手の甲や手首などを覆い、保護するためのものです。
さすがに素手で壁を殴っては痛い(どころじゃない)ので
ガントレットをつけさせてみました。