35.茨の牢獄と断罪の場 前編
〜茨の牢獄と断罪の場1〜
―――狂ってる。
心の底からアリスはそう感じていた。
寒さをこらえるようにうずくまりながら。
「ドレス・・・汚れちゃう・・・・キングがせっかく用意してくれたのに」
ここ、アリスが今いる場所は『茨の牢獄』と呼ばれる城の地下にある牢屋だ。
普通、罪人は城から少し離れたところにある『断罪の塔』へと連れて行かれる。
この茨の牢獄は昔使われていた・・・つまり、今は使われていない断罪の場。
茨の牢獄の存在は、王族と上層部にしか知られていない。
そこに、アリスはいる。
身を少し動かすだけで、ジャラと鎖が音をたてた。
アリスの手には鎖、足には足枷がはめられている。
いま、アリスをこうさせたのは他の誰でもない、クイーンだ。
あの時、クイーンと対談した時、アリスはクイーンの狂気を身を持って知った。
自分に対する憎悪も、結婚者に対する愛情も、全て。
『お前さえいなければ・・・お前さえ・・・・アリスさえ・・・・・』
クイーンの声が心の中でこだまする。
アリスを心から憎んでいる、あの言葉。
「私って・・男運も女運も無いのねー・・・」
思わず乾いた笑いを漏らした。
変人には好かれ、女の子からは嫌われる。
「どうして、なの・・・・私は、普通にしてるだけなのに」
アリスの言葉はひんやりとしたレンガの壁に吸い込まれた。
アリスにとっての「普通」が変なのだろうか。
女の子の友達が欲しいとアリスは望むだけだ。
しかし、それも叶わない。母譲りの美貌を持つ、から。
女性はひがむ。仕方の無いこと。それは良くわかっている。わかってはいるのだが・・・
これから先、女の友達ができないのなら、アリスは自分自身の顔を傷つける覚悟だってある。
全て全て不毛なのだ。男達はアリスが好き。でもアリスは恋愛よりも友情を求めている。
けれど、その“友達”になれる女の子達はアリスを嫌う。
「ハァ・・・」
じんわりと涙がにじむ。アリスはそれをこぼれさせないように上を向いた。
きっときっと、一度涙を流したら、泣くのを止められなくなる。
泣きたい。けれど、泣こうとしない。泣いてはならない。
アリスは、武官なのだ。自分から、武官になったのだ。
完璧な母と父であるには、涙を見せてはいけないのだと。
どうしても、必死に足掻いても、抗えないこと。
自分が決めたことだから。アリスは自ら、女で生きることを止め、戦場で生きることを決めた。
唐突に、シャランという音がアリスの耳に入った。
どこかで聞いたことのある、音。段々とその音は近付いてきた。
「やはり、此処にいられたか」
「!!」
その人物は、錫状からシャンシャンと音をたて、アリスを鉄格子ごしに見た。
今回は短めでしたが、後編は長くなると思います。
さて、アリスの元に来た人物とは誰でしょう?
錫状といえば・・・あの人しかいませんよね?