32.反響の国の女皇と近衛(注意!)
一部話の都合上、近親相姦的な表現が含まれます。
例:弟に対して恋愛感情を持つようなもの。
(そこまで過激じゃないですが)
苦手な方はお戻りください。
読んでやるという猛者の方のみどうぞ。
〜反響の国の女皇と近衛〜
「くそっ!あの女・・・」
忌々し気にその女は壁を叩いた。
その女の後ろには、鎧に身を包んだ者が静かに立っている。
「何故、戻ってきた・・・!!」
暗いその部屋に、鎧を着た者が灯をともす。
ボウ。という音とともに女の顔も、鎧を着た者の姿も明らかになった。
女は美しい黒髪を巻き毛にし、真紅のドレスを着ていた。
見るからに派手派手しいドレスなのに、女と違和感なく
むしろ美しいと感じさせてしまうのは、その女の美貌故だろう。
「クイーン様。どうか落ち着いてください」
クイーン、と鎧を着た者――女皇の近衛であるルーク――は女にそう呼びかけた。
クイーンとはキングの姉。つまり反響の国の女皇。
狂眼と呼ばれる赤い瞳を爛々と光らせ、
「これが落ち着いていられるものか!」
と吐き捨てた。
「アリス=リデル!あの女・・・よくもキングに!!」
女だてらに兵士として活躍し、女皇の近衛に選ばれたルークは悲しげに目を伏せた。
―――クイーンは狂っている。
それは、ビショップとナイト、ルークしか知らないこと。
いや、もしかするとキングも気付いているかもしれない。
ただ、気付かないフリをしているだけで。
クイーンは、実弟であるキングを愛している。
本物の姉弟であるにも関わらず、だ。
血の濃さを保つため、従兄弟など血の繋がった者同士
結婚するのは王族では良くあること。だが・・・姉弟はまずない。
いくら王族といえどもそれはない。
誰よりも知的で、誰よりも強く、誰よりも美しかった皇帝。
姉はその者を愛した。たとえ近親相姦であろうとも。
血の禁忌であろうとも。
女皇は、狂愛といえる狂った愛情を実弟に向けたのだ。
けれど、長年の間、女皇は誰にもそれを悟らせなかった。
いくら弟が自分にたいして、本当に欲しかった“恋愛心”を向けてくれず
姉弟愛というものしか向けてくれなかったとしても。
女皇はそれでも構わなかった。
け れ ど。
「クイーン様。まだ“リデル”が在る以上、“アリス=リデル”という者は
“存在しません”。あの者はアリス=リデルでなく“アリス”です」
「ふふ・・そうだったな」
一つの町が、一つの使者が、クイーンの奥底に潜む
狂愛を引きずりだしてしまった。
白雪の町のことで交渉することになり、そしてアリスという名の使者が送られた。
そうしてキングはアリスに惚れてしまった。
キングは愛した。アリスのことを。
あんなにクイーンが心で欲していた恋愛心を、アリスは数日の間で手に入れた。
それは、クイーンを狂わすのには充分だった。
「まぁいい。また私の呪で消せばいいだけのこと」
クイーンは前から黒魔術という禁呪に魅入られていた。
危険すぎるその魔術は、狂眼の目を持った者だけに使える。
狂眼でない者が使えば、使用者も相手もどちらも死ぬからだ。
長年、勉学していたその魔術をクイーンはアリス=リデルに向かって使用した。
流石に殺せば厄介なことになる。だから殺さずに、
「記憶を、ですか?」
アリスの記憶を奪った。
そしてその際偽装工作もした。
ビショップの式術「傀儡」を使わせ、アリスに黄昏の国あてに手紙を書かせたのだ。
そうすれば、黄昏の国は「アリスは結婚は嫌で、反響の国に監禁されたが、
逃げてきた。しかし途中で事故で記憶を失った」と思わせられる。
誰もがその術中にはまった。
「そう。・・・・だが、リデルの存在は予想外だったがな・・・・
ルーク、命令と作戦を今から言う」
クイーンは赤い口紅で彩られた口元をくっと歪ませる。
「アリスを、捕らえる」
その一言は、何よりも狂った言葉で。
それを分かっていながら、ルークは静々と自身の蒼い髪を揺らし、頭を垂れた。
登場人物紹介
クイーン(24歳)
瞳:赤色 髪:黒色
武器:杖(黒魔術)
特技・・・魔法
趣味・・・読書(歴史書や魔術書)
備考・・・スペードと同じ狂眼の持ち主。
反響の国の女皇。
キングの姉。キングを心から愛している。
普通の魔法より強力な黒魔術に魅入られている。
目標を達成するには手段は厭わない人。
美にも魔術にも教養にも一切の妥協をゆるさない。