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小話1 梅雨と恵みの雨

−帽子屋的見聞録−


黄昏の国、はとても過ごしやすい国だ。

地理的に四季というものがある、というのも理由の一つだろう。

夏には夏の良さがあるし、冬には冬の良さがある。

だからこそ、黄昏の国は住んでいて飽きない国だ。

しかし、梅雨期は勘弁してほしいものである。


俺、帽子屋はそんなことを思いながらため息を吐いた。

というのも、俺は何時ものごとく仕事しようと城に行った。

だが、その帰り急に雨が降ってきて、今も雨宿り中だ。

(俺は城内ではなく城下町の宿舎で生活している)


そういえば、昨日から梅雨入りしたとか云われていた気がする。

雨は豊かな森を育む恵みの雨だ。それをわかってはいる。


でも、嫌なものは誰だって嫌だ。

ジメジメするし、カビは生えるし、洗濯物は乾かないし。

・・・宿舎暮らしをしているせいか、物凄く主婦臭くなっているな、俺。


そんなことを思いつつ壁にもたれた。

雨宿りというものは、とてつもなく暇でとてつもなく憂鬱だ。

この分だと雨は止みそうにない。

しかたなく濡れて帰るしか・・・・


「あら、帽子屋?」


そんな憂鬱な気分も吹っ飛ぶくらいの女の声がした。

顔を見なくても声でわかる。その人物は


「アリス・・・」


自分の想い人、だった。


でも何故アリスが此処にいる?

どうして傘をさして俺の前にいるのだろう。

確かアリスの宿舎は時計兎たちと同じ城内だったはず。

なぜ城下の細道の、今では使われていない小屋(俺は雨宿りのためにいる)の前にいるのか。


買い物でもしていたのか?にしてはこんな細道通る訳も無い。

それにアリスは傘以外は何も持っていない、手ブラだ。


「なんでこんなところにいるの?」


アリスの方から俺に尋ねて来た。

相手にしてもきっと俺と同じことを思っていたんだろうと推測できる。


「雨宿り。宿舎に帰ろうとしたら降ってきた」


体を壊したくないしな、と付け加えるとアリスも確かに、と笑う。

質問に答えたのだから今度はこちらから質問だ。


「アリスこそ何故ここに?」


「んー、散歩」


「散、歩・・・?」


唖然とした。よりによってどうしてこんな雨の日に。

晴れた日の方がよっぽど良いと思う。


「うん。・・・・私、雨の日好きだから」


「は、好き?雨の日が?俺はジメジメして好きじゃないが」


湿気を含んだ服の裾を摘みそう言うと、何が面白いのかアリスは笑んだ。


「私もね、前までそう思ってたけど。雨は雨なりに良い所があるわ。

 晴れの日なんか、太陽の下にトンファー置いてたら火傷しそうに熱くなってたし」


懐かしむようにそうアリスは話しかけてくる。


確かに夏場は武器が熱を吸収してものすごく暑くなっていた。

俺の大剣も例外ではない。


「雨はマイナス面の方が強いかもしれないけど、植物、花、農民には

 物凄くありがたい恵みの雨なのよ。私個人の意見だと猫は雨が苦手だから、

 雨が降るとチェシャ猫も大人しくなるしね。ありがたいわ。

 帽子屋はそういう風に思ったことない?」


俺は少しだけ考えてから「いや、無い」と返事した。

するとアリスは少しだけ残念そうな顔をしてから

「これからあるといいわね」と呟く。何で残念がるのか分からない。

自分の好きな物を、他人にも好きになってもらいたいという心理だろうか。

悪いがその心理は当てはまらない。何よりこれ以上アリス好きな奴が増えてたまるか。


「で、帽子屋これからどうするの?」


「どうするったって・・・何時上がるか分からない雨が止むのを待つか、

 濡れて帰るかのどちらしかないだろう?」


「じゃあ、傘、入る?宿舎まで」


俺は思わずアリスの顔をまじまじと見た。


まさか、そんなことを言われるとは。普段ならそんなことをしてみよう。

間違いなく殺られる(主に時計兎)睨まれる(主にチェシャ猫)

すがるような目で見られる(主にハンプティー、スペードetc)ことが安易にわかる。


・・・・・そう言えばそんなことをポツリとハートに洩らしたところ

「“イカレ”帽子屋じゃなくて、“ヘタレ”帽子屋ね」と呆られた。


このチャンスを逃せば、二度とこんなことは無いと思う。

だったら、逃さないまでだ。


「頼んでいいか?」


「了解。じゃ、入って」


アリスの隣で相合傘。まさか嫌いな梅雨で

こんな幸運ラッキーなことが起こりうるなんて、思ってもいなかった。

今日は何て恵みの雨なのだろう。


「あ、そうか」


「なに?どうしたの?帽子屋」


「いや、雨の日も悪くないって今思えただけだ」


「へぇ、何があったかわからないけど・・・よかったわね」


本当に、良かった(この際アリスの鈍さには突っ込まないことにしよう)


どうやら、雨の日も好きになれそうだ。




30話記念に書いた

「帽子屋的見聞録−梅雨と恵みの雨」です。

いかがでしたでしょうか?

「イカレ帽子屋」→「ヘタレ帽子屋」のネタは

絶対しようと思いました。これは実話なので(笑)


では、これからも「黄昏の国のアリス」を

よろしくお願いいたします。


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