27.女王の決意と王の決断 中編
〜女王の決意と王の決断2〜
「・・・アリスは鏡だ」
そう言ってスペードは目を伏せた。
「理想の母親像と父親像を映すだけ。鏡の裏側はとても脆い。
アリスも、そうだ。ハートよりも脆いかもしれない」
アリスは、人の死に直面すると「落ち込んでも前には進めないわ」と言う。
けれど誰も居ないところでは涙していた。泣いて泣いて泣いた。
戦場でも同じように。無力な自分を嘆いて、深い悲しみに覆われている。
「まさか・・・アリスに限ってそんなこと」
「あるよ」
ハートの声が震えている。
今まで堪えていたはずの涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「ごめ・・なさっ・・・アリス」
――その時、生まれて初めてハートは“他人のため”に泣いた。
「僕は、そんなアリスを好きになった。
ただ、強くて優しいだけのアリスだったら、僕がアリスを
好きになる可能性は無いよ・・・守りたいと思った愛護心が何時の間にか
愛情に変わっていたんだ」
ゴシゴシとハートは赤くなった目を擦る。
それを見て、スペードは決心したようにハートに向き直った。
今のハートにならこの国を任せられる。そう判断して。
「ハート、君にも王家に伝わる宝を託すよ。
僕が反響の国へ行っている間、王の代理をするために」
ハートがこくりとうなずく。
それを目で確認すると、スペードは棚の奥から大きめの
宝箱をだした。
「母上から、いつも肌身離さず持つ様にと言われた鍵を持ってるだろう?
出してくれ」
ハートはスペードと同じように鎖で繋がれた鍵を取り出した。
スペードとは対照的に銀色の鍵をスペードに手渡す。
ガチャリ、と重々しい音がして宝箱が開いた。
「これ・・・は・・?」
中には、様々な宝石で装飾された棒の上に、
真紅でハートの形をした宝石がついたステッキが入っていた。
「王代理を勤める女性だけが持つことを許される杖。
これがあれば、王代理、すなわち他国との交渉や
自国の武官文官の整理をする権利を持てる。ハートに託すよ、これを」
重みのあるステッキを持つ。
ハートはそのステッキを持った時点で、仮でも王だ。
「でも、やっぱり平気かい?」
その問いにハートはフフンと不敵に笑む。
「あたしをだれだと思ってるの?」
ハートはこうみえて頭が良い。
ダイヤに匹敵するほど。
「脳ある鷹は爪を隠す」というが、正にハートのためにあるような言葉だ。
「そうかい・・・じゃあ、頼むよ」
スペードはスッと指輪に触れ、窓近くに移動する。
窓を開け、身を乗り出す。
金色の髪が、闇夜のせいだろうか、黒く見える。
「あ、兄さま。アリスに一言伝言お願いっ」
ハートは深く息を吸い込み、年相応の笑顔で言う。
「帰ってきたら、一緒にお茶しない?って伝えて!」
その言葉を耳にしたスペードは、口の端を僅かに吊り上げて窓から飛び降りた。
今更な気もしますが、ビショップの紹介です。
(ただ単に忘れていただけでしょうby時計兎)
登場人物紹介
ビショップ(20歳)
瞳:黒色 髪:ハゲだが黒色
武器:錫杖&式術
特技・・・観察すること
趣味・・・植物を育てること
備考・・・髪型が髪型なのでわかりづらいが
実は誰よりも男前。
反響の国の王の補佐(ダイヤと同じ)
クローバーとは何か因縁がある。
純和風な人物で、法衣をきている。
広い視野で周りを見渡せる知識人。