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26.女王の決意と王の決断 前編


 〜女王の決意と王の決断1〜


ビショップ、いや反響の国にアリスを攫われて少し経った頃。

スペードはただ1人、書斎に篭っていた。


ダイヤとクローバーは今はいない。

クローバーは書斎外で、スペードを守っている。

ダイヤは宣戦をされたため、文官として世話しなく働いているからだ。


スペードは夕闇に包まれた部屋のなかで、目の前のコップを手に取った。

中の水を飲み干すと、何か決めたように立ち上がる。


そうしてスペードは自身のマントを脱ぎ、胸元で隠されるように

なっているチェーンを外す。

チェーンには金色の鍵がかけられていた。

金の鍵で机の上にある小ぶりだが宝石で彩られた宝箱を開けると、

中からスペードの瞳の色と同じ、紅い宝石で飾られた指輪を取り出す。


「“彼”を呼ばなければ、いけない・・・な」


ポツリと呟くと、その指輪は華奢な指にはめた。

と、その時


「兄さまっ!戦争ってどういうこと!?全く訳がわからない!」


派手な音をたててハートが入ってきた。


すると、ハートはスペードの中指にはまっている指輪を見て瞠目する。


「それ!その指輪!!もしかして、“彼”を呼ぶの?」


「あぁ・・・」


そう短くスペードが肯定の返事をすると、ますますハートはまくし立てた。


「やめてよ!兄さま。たかたが一武官のために王家直属の「仕方ないじゃないか!」


普段穏やかな兄のその声に驚き、ハートは押し黙る。

スペードはシャッとカーテンを開け、窓から外を眺めた。


「仕方ないじゃないか・・・好きになってしまったものは、変えられないんだ・・」


「っ!どうして!?どうしてみんなアリスアリスって!

 初めて好きになった人・・!ハンプティーだって目線の先にはいつもアリス!

 なんでみんな!どうしてなの!?」


目に涙をため、それでも泣かまいとハートはこらえていた。


――愛されたい。

人がそう思うのは当たり前だ。それが好きな人からなら尚更。

事実、スペードがそう思っているように。


今にも泣き出しそうなハートの頭をそっと撫で、

スペードはゆっくりと口を開いた。


「ね、ハート。ハートは小さい頃から父上と母上の愛情を受けて

 育ってきただろう?・・・でも、アリスはそれらの愛情を受けなかった。

 いや、受けれなかったんだよ」


「・・、どういうこと?」


その言葉に、静かにスペードは過去を語り始めた。

アリスの幼いころの話を。


「あれは、僕も小さい時だったからハッキリとは覚えてないけれどね・・・」



・・・アリスの母は白薔薇の国1の歌姫と謳われた美女、ロリーナ。

アリスの父は紅薔薇の国1の軍神と呼ばれた男、イーディス。

白薔薇の国と紅薔薇の国は敵国同士だった。

それでも2人は結ばれた。国なんて関係無い、と。


しかし、2人とも自国から「反逆者」「非国民」と非難され、

迫害され、亡国した。追っ手に追われながらも。

そこでもうすでにアリスという子を宿していた夫婦は、黄昏の国へ逃げてきた。


黄昏の国は他国人や多種族で成り立つ国である。

誇称の国出身のクローバーや、獣人の時計兎やチェシャ猫がいい例だ。


そして黄昏の国へ来て、スペードとハートの父、前代国王に謁見した。

夫妻は自分の子をこの国へ滞在させてくれと頼んだ。

前代国王は「子だけでなく君らもいるといい」と言ったけれど、

追っ手が来て、子はおろか、この国にまで迷惑がかかるといって

2人の愛おしい子、アリスの平穏を祈り泣く泣く思いで国を出て行った。


「ハートだって知っているはずだ・・・

 頭を優しく撫でてくれる父上の大きな手や、僕らを抱きしめてくれる母上の暖かな腕」


ハートはなぜか泣きそうな顔をしてスペードを見た。

スペードは気付かないフリをして言葉を繋げる。


「でも、アリスはそれを・・・親の愛情を知らずに生きてきた。

 僕はね、一度だけアリスからこんな話を聞いた」


『親なんてものは知らなかったし、必要もないわ。

 だって・・・今までずっと無かったし与えられなかった存在だから・・・

 だけど、村でハンプティーや他の子たちが親と一緒に手をつないで

 歩いているのを見るのがなぜかつらかった。目を剃らして、見ないようにしてたの。

 心の中ではやっぱり寂しかったり羨ましかったりしたんだなぁって実感したわ。

 ・・・・だから私“親”になるわ。皆を隔てなく抱擁できる親みたいな存在に。

 私みたいな孤児の子に愛情を与えられるような人間になりたいの』


そう言ってアリスは笑った。

だからアリスはいつでも笑って、いつでも人に愛される。

あの温かい心に触れるたび、いつしか自分も温かくなれる。


「アリスは父のように皆を守りたいからと言って武官になった。

 それに元々軍神イーディスの娘だったから素質もあったしね。

 だから“母”のように優しく、“父”のように強く・・・」


そこまで言って不意にスペードは言葉を切った。

目を伏せて、まるでアリスという存在をかみ締めるかのように。



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