25.反響の国の王と専属メイド
〜反響の国の王と専属メイド〜
アリスは微睡の中にいた。
「(ベッドの匂いも、感覚も違う・・?)ん・・」
浅い眠りの中でそう思う。
アリスが今まで寝ていたベッドは、とてもフカフカで
包み込まれるかのようだった。
けれど・・このベッドは、フカフカだが沈み込んでいくような感覚。
一度沈めばもう、2度と戻ってこれないようで・・・――――。
そこでパチッとアリスの目が覚める。
「っ・・・!ここどこ?」
最近、こんなことが多い気がする。
いつの間にか知らない土地にいることが。
ベッドの周りをレースのカーテンが囲っていて、
いわゆるお姫様ベッドというやつだ。部屋は正直、とても豪華絢爛。
「と、いうよりこの格好は一体・・・」
アリスは白いワンピースのような
ネグリジェのような着を身に纏っていた。
「アリスさま」
不意に声をかけられて驚く。
アリスが振り向くとそこには1人のメイドがいた。
髪を後ろで一つに束ねていて、金髪碧眼。
外見から判断するに、アリスより少し幼く16歳程度だろう。
「えっと・・・?」
「あ、リデルと申します。リデルはとても心配しました。
アリスさまが一生起きないかと思いました」
心底心配そうにアリスを見つめるリデルという少女は
一体何者なのだろう。そんなことを考えているアリスを尻目に、
リデルはてきぱきと説明し始めた。
「リデルはアリスさま専属のメイドです。御用がありましたらすぐに
お呼び出しくださいませ。これからよろしくお願いいたします」
ペコッと一礼され、つられてアリスもお辞儀し返した。
思わず「ここどこですか」と聞くのを忘れたまま。
「アリスさまは汚れていましたのでお風呂に入れさせてもらいました。
下着と服はこちらで用意したものです。
ここはアリスさま専用のお部屋になりますわ」
すっかり、なぜ専用のメイドや専用の部屋が用意されているのか
という疑問はアリスの頭からは吹き飛んでいた。
「私の着ていた服はどこへ?」
「洗わせていただきました。・・・ですが」
そう悲しそうにリデルは目を伏せる。
長い睫毛で頬に影ができていた。
「どうしても血が落ちなくて」
ドクン。
と、アリスの心臓が跳ねる。
全身の血が逆流していくかのようである。
血・・・血・・・・兇手たちの返り血。
アリスは人を殺したのだ。
その手で、相手の首を刎ねた。
武官として当たり前の行為かもしれない。
しかし「アリスが武官だから」「これは戦争だから」
そんな理由で人の命の重さが軽くなるわけではない。
戦争では虫けらのように人は簡単に死ぬ。本当に、あっさりと。
首と心臓を狙えば即死だ。
「アリスさま?どうかいたしましたか」
蒼白になっていたためか、リデルから心配そうな声があがる。
アリスは引きつりながらも無理に笑顔をつくった。
コンコン。
突如、ノックの音が辺りへ響く。
「入って良いだろうか?」
アリスはリデルの顔と扉を交互に見、どうぞと返事をした。
低い男の声だった。
「では失礼」
ギイィィと音をたてて、開いたドアの先には予想通り男の姿だ。
「こっ皇帝陛下!!よ、良くいらっしゃいました」
リデルがふかぶかと頭を下げた。
(皇帝陛下って!キングさんのこと!?と、いうことは・・・)
目の前にいる男が、アリスに求婚した“あの”反響の国の王なのだ。
「リデル、下がっていてくれ」
リデルははい。と返事をすると部屋から出ていった。
妙な空気が広がる。
「アリス」
今まで聞いた事の無い声で名を呼ばれ、アリスはすこしどきりとする。
キングはアリスに向き直ると視線を合わせた。
「・・・記憶喪失になったと聞いた。それは真実なのか?」
キングは物静かにただ、それだけを聞いた。
アリスは困惑しつつも肯定する。
「そう、か。もう俺のことも忘れているのだろう」
「はい・・・あ!でも誰だかは知ってますよ。キングさん、ですよね?」
刹那、キングは驚きに駆られたかのような表情をしたが
すぐに真剣な顔をし、アリスを見つめる。
「なら話しは早いな。アリス、単刀直入に言う。
結婚しよう」
そのとき、アリスは頭の中が真っ白になるかのような錯覚を覚えた。
登場人物紹介
キング(21歳)
瞳:碧色 髪:銀色
武器:全身(つまり魔法)
特技・・・賭け事
趣味・・・読書
備考・・・結婚したい男NO.1の座に輝く。
反響の国の皇帝。
姉が一人おり、両親は故人。スペードと環境は似ている。
昔は今と違い冷血で非道、敗者切り捨てな性格だった。
21歳にして“反響の国最上治の皇帝”と呼ばれる。
アリスが大切でそれ以外の女は眼中外。