22.アリスの罪と天の罰(少々の流血表現あり)
ほんのちょっぴりですが、流血表現があります。
苦手な方はお避けくださいm(_ _)m
〜アリスの罪と天の罰〜
――来い。私の元へ。
アリスの頭に声が響く。これは誰だ?
――こちらに歩め。さぁ、早く。
頭が割れそうに痛い。一体、何だというのか。
「アリス!」
大きな声で名を呼ばれ、朦朧としていた意識が覚醒した。
先程アリスを襲っていた圧迫感は今ではすっかり無くなっている。
「え・・・あ?チェシャ猫?」
「もー、チェシャ猫?じゃないよォ。どうしたのぉ?」
アリスは言葉に詰まる。
どうした、と言われても答えようがない。
「何でもないならいいけどぉ、心配だったんだァ」
チェシャ猫は困り果てたアリスを見て、深く追求しようとはしない。
そこが少し有難くて嬉しかった。
「うん、ごめん。所で、ここは?」
どうやらここは森の中。
日が当たらないせいで何とも言えない不気味さを放っている。
「あァ。アリスを追ってたらねぇ、アリスがここで立ち止まったからぁ。
戦場からはそこまで離れてないよぉ?」
戻ろうか、と言われアリスもそれに従った。
だがしかし、チェシャ猫がアリスの手をとった瞬間・・・
「ぅあっ!」
チェシャ猫に電撃のようなものがはしり、そのまま痺れ倒れた。
「なっ・・!チェシャ猫!!大丈夫?どうしたの?」
軽く揺するが起きる様子は無い。
それもそのはずだ。電撃のせいで体中が麻痺しているのだから。
突如、刃が空を切る音が聞こえた。
ガキィンッ!!!
「くっ!」
アリスがトンファーで何とか刃を受け止める。
が、思った以上にその攻撃は重く、片手で受け止めたせいか腕が小さく痺れた。
「へぇ、さすがだな。『黄昏の国のアリス』さんよぉ」
どこからか下婢た笑い声が聞こえる。
一人ではなく、複数の。
「悪いが、あんたを反響の国に連れさせてもらうぜ」
一瞬にして、囲まれた。
ざっと人数は10人弱。しかも中々の手練だ。
「行くぜ」
舐めきっているのか、聞こえよがしにそうリーダー格の男が言う。
それを合図に、兇手たちが四方八方から襲いくる。
トンファーを構えなおし、何とか攻撃から身を守る。
甲高い金属同士がこすれあう音。
見事な攻防戦だ。
「ん・・くっ!!」
敵の剣にトンファーが弾かれる。
そして後方へ飛んでしまった。
「おいっ捕らえろ!」
兇手が一気に間合いを詰めてきた。
チェシャ猫は眠ったままで、起きる気配はない。
頼れるのは、自分のみ。
「チッ!まだ武器を持ってやがる。気をつけろ!
四肢が無事なら多少傷つけても構わねぇ!」
チャッと腰にぶら下げていたダガーを手で握り締める。
できる限りなら、使いたくなかった武器だ。
ざぁっと脳裏に何かが横切る。
甦っていく、昔の映像。
敵が、今いるはずのない敵が阿修羅のごとくアリスに向かう。
その思い出と、今の兇手が見事なまでに被る。
――怖い、とアリスは直感的に感じた。
目の前にいる兇手は剣をアリスにむけて振り下ろす。
アリスは何かを考えるより前にダガーで剣を弾いていた。
その隙に、相手の首を掻っ切った。
「ひっ」
一瞬の出来事。
相手の頭が右へころりと落ちて、首から
勢い良く溢れる血がアリスの全身にかかる。
悪夢のお茶会と名づけられた理由。
――この5人が揃うと、辺り一面が悪夢のような地獄絵図となるという。
それは迷信や、噂などではない真実。
真っ赤な、真っ赤な真っ赤な血に濡れたユメ。
それが、悪夢。
「このアマ!!よくも!!」
前後両方から剣を振り切られる。
しかし、アリスはすぐに右に跳び、その2人の首を切る。
首を切れば勝つ。いとも簡単に。
(これが、私なのね)
多くの人の命を救い、多くの人の命を奪った。
これが、『黄昏の国のアリス』なのだ。
・・・アリスは全身で息をする。
その場にはアリスと倒れているチェシャ猫以外に誰もいない。
つまりは、そのか細い手で皆殺しにしてしまったのだ。
記憶を無くす前のアリスがしてきたこと。
けれど、こんなことしたく無い。戦上での記憶なんて甦ってほしく無かった。
どうせならば、もっと楽しい記憶が欲しい。そう考えるのは贅沢か?
不意に、ポツポツと空から雫が滴る。
しだいに絶え間なく雨が降り始めた。
まるで、天罰のようだとアリスは自嘲する。
この、返り血を流してくれないだろうか。
この身にこびり付いた人の血を。
――人を殺した罪を洗い流してくれないだろうか?
そんなアリスを責めるかのように、雨は鋭く降り続けた。