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21.戦場光景と錫杖の音



 〜戦場光景と錫杖の



ギンギンッと刃がぶつかり合う音がし、幾重もの矢が飛び交う。


上空から見れば、此処戦場は反響の国の方が優勢に見えるのだ。

だが、実は黄昏の国が小規模ながら圧制している。


「っ・・・!!」


眼を逸らし、震えるアリスの肩を帽子屋が抱く。


「目を逸らすな、アリス。いくら見たく無いようなものだとしても、

 目に焼き付けろ。これが、戦場だ」


アリスは戦争というものを甘く見すぎた。


国のために戦う?そんなこころざしここでは無意味だ。

生きるか死ぬか、生と死をかけた性質たちの悪い遊戯ゲーム


切れば血が出る――当たり前。

死ねば動かない――当たり前。

当たり前のことのはずなのに、戦場では当たり前であってほしくない。


死にたくなければ、勝て。

これが戦場であり、アリスの生きていた場所なのだ。


「紅茶、飲むかい?」


アリスを気遣っての言葉だろう。

しかし、ここでは少しでも何かを口にすれば吐いてしまいそうで堪らない。


「アリス・・・」


「へ、いき。行きましょ?味方の武官はナイトメアを待ってるわ」


倒れそうなのを堪え、ゆっくりと踏みしめる。


「アリスゥ、オレはアリスから離れないよぉ?」


いつもは即断っているはずのチェシャ猫の言葉が、

今では何だか温かい。


「うん。ありがとね」


人をあやめたくないという切実な願いから、トンファーを構える。

アリスはまだ自主的に戦うなんて出来やしない。

襲われたら、正当防衛として身を守る。

皆の傍にいて、戦いを見守るだけだ。

それでも、記憶を取り戻すキーワードになるかもしれない。




その様子を遠くから見つめる人物がいた。


「ふむ。これはまた・・・思わぬ獲物が引っ掛かったものだな。

 しかし、好戦的でない所を見るとすると・・・記憶喪失という噂は

 まことであられたのか」


一風僧侶のようないでたちをした男はフウッと息を吐いた。


「・・“式”で敵を翻弄せよとの命であったが、むを得ぬな」


スッと右手を上げる。

それを合図に、後ろに控えていた者達が男の前にひざまずく。


兇手きょうしゅたち、捕まえに行くぞ。『黄昏の国のアリス』を」


その言葉で、兇手たちは四方八方へ散らばった。

男は錫杖をシャンと鳴らすと、兇手の後を追う。


「あれほど・・・戻って来られるなと告げたのだがな、アリス嬢」


シャンシャンという音が、静かに響き渡った。




どんどん人が倒れていく。

時計兎の鞭、ハンプティーの槍、

チェシャ猫の(どこから補充しているのやら)大量なナイフ、帽子屋の大剣・・・。


血飛沫ちしぶきがあがる。アリスは思わず顔をしかめた。


「・・・これが」


死ぬ、ということなのだ。


「〜〜!!もう駄目駄目!!戦場に行くって言ったのは私なんだから!

 いい加減慣れなきゃ」


人の死に慣れることは恐ろしい。が、せめて血には慣れた方がいいだろう。

アリスは血を見ただけで青くなる。


ハァとアリスはまたもや溜息をく。

が、その時―――。


「あぅ・・!」


アリスは体に急に異常を感じた。

何かに圧迫されるかのような感覚。


目の前に、一枚フィルターがなされているかのようで、

耳も壁を通じて聞いているかのような感覚。


この身体は自分の物の筈なのに、自分の身体のようではない感覚。


「ぅ・・・ぁ・・・・?」


何故だ。何故何故何故何故。

身体が勝手に動くのか。

足がどこかに行こうとしている。駄目駄目駄目だ。


ナイトメアから、皆から離れては危険なのに。

足が、言うことをきかない。


「ダメ」


何とか動く足を押しとどめようとする。

しかし、圧迫感が強くなり、アリスは意識を手放した。

ドサリと地に崩れ落ちる。


「「「「アリス!!?」」」」


皆の声が重なりあう。

以外にもアリスは直ぐにムクリと起き上がった。

しかし、安心したのもつかの間・・・


「大丈夫か!?」


帽子屋が兵士ポーンの攻撃を受け流しながら訊く。

けれど、アリスは何一つ言葉を発しないまま、フラッとどこかへ行こうとする。


「チェシャ猫!!」


「わかってるよぉ!」


チェシャ猫はアリスを追う。

どうして、アリスは急にこんな行動を起こしたのか。

それはだれにもわからない。




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