19.漆黒の夜空と夜のヒト 後編
〜漆黒の夜空と夜のヒト2〜
ハンプティーとそっくりな外見をした男は、指先でアリスの首筋をなぞる。
ビクリとアリスはその動きに反応してしまう。
「ぃっ・・や・・・!!」
じたばたと抵抗するアリスを男は押さえつける。
これが女と男の力の差だ。
アリスは身体でひしとそのことを実感し、少し悲しくなった。
「そっちが勝手に部屋に入ってきただろ。
何があっても文句は言えねぇと思うがなぁ?」
男は器用にもアリスの服のボタンを片手ではずす。
――本気の本気で貞操がまずい。
アリスがそう思った瞬間、なぜか男がアリスから離れてくれた。
と、同時にハンプティーの部屋の扉が吹っ飛ばされて、
(誰が弁償するのだろうか)部屋の中に転がった。
「な、何っ?」
状況判断をする前に部屋に1つの影が入ってくる。
横目で男を見ると戦闘開始とでも言うかのように槍を構えていた。
闇の中からしなやかな鞭がアリスにのびる。
そのまま鞭は腰に巻きつき、ぐいと引っ張られるのをアリスは感じた。
「無事ですかアリス!?犯されたりしてませんよね!!??」
「お、犯され・・・そんなのされては無いけど・・・」
「ならいいですけど・・・アリスボタンなおして下さい。
正直目に毒です」
「あ!ご、ごめん。ほ、本当にこれ以外何もされてないからね」
その人物は時計兎だった。
鞭は時計兎の武器。攻撃する他に、
カウボーイの如く物を取り寄せられるとは。使い勝手の良い武器だ。
守るように時計兎はアリスを抱きしめる。
そして男を強く睨みつけた。
「乱暴だな、時計兎?後でドアを直しておいてくれよ」
「ええ、後で良ければいつでも直してあげますよ。
それより、アリスで遊ぶことは絶対に許さないという忠告、
前にもしましたよね?“ダンプティー”」
ダンプティー?
それは、それは一体。
「どういうことなの・・?」
時計兎は今、確かに、この男をダンプティーと呼んだ。
ここは“ハンプティー”の部屋であったはずだ。
つまりは、双子なのか?けれど、ハンプティーは以前自分のことを
“ハンプティー・ダンプティー”と名乗った。これはどういうことなのか。
「あぁ、記憶無くしたんだっけ。お前」
ダンプティーの端麗な顔が近くにある。
いつの間に、こんなにアリスの近くまで来たのだろう。
手を伸ばせば届きそうなほど、ダンプティーは近づいていた。
「アリスに触れないで下さい」
ダンプティーとアリスの間に庇うように時計兎が立ちはだかる。
「残念」
ダンプティーは少しも残念がってない顔でこう言うと、アリスから離れた。
アリスは身震いした。
時計兎とダンプティーの殺気にも似たような気が肌を通して伝わってくるのだ。
「・・・っねぇ、時計兎。この人、ハンプティーと同じ外見をしてるけど
ハンプティーじゃ無いわよね?何なの?」
アリスは場に立ち込める黒雲を振り払おうと躍起になる。
アリスの発言に対し、時計兎はかぶりを振る。
どうやら、話を逸らすのには成功したようだ。
「教えてやるよ、アリス。ハンプティー・ダンプティーってのは姓と名じゃない。
ま、簡単に言えばハンプティーは二重人格なんだよ。
昼の理性がハンプティー。夜の本能がこの俺ダンプティー。
あまりにも性格が違いすぎて、二重人格っつうより
1つの体を2人の人間が共有してるみたいな感覚だな」
ハンプティーは幼い頃から自分の感情を内に隠す子だった。
親の言い成り。嫌なことも嫌と言えず、期待に応えるために
自由でさえ奪われた。まるで操り人形のように。
しかし、ある時、遂に我慢していた感情が爆発した。
翌日には元通りいい子ちゃんのハンプティーに戻ったが、
夜になれば化けの皮が剥がれたかの様にダンプティーという人格ができた。
ハンプティーはダンプティーであった頃の記憶が何一つ無い。
例え、自分には夜になれば暴走する人格があると認知していても、だ。
殻・・・にこやかで心優しい自制心のかたまり。それが「殻のハンプティー」
内・・・ハンプティーの裏側の感情を持つ本能のかたまり。それが「内のダンプティー」
「アリスはさ、こんな男と付き合っていけるか?」
「どういう意味ですか」
アリスの代わりに時計兎が問う。
「こんなころころと性格が変わる奴に、記憶を無くした
“今のアリス”は仲良くできるかって聞いてんの」
グラリとアリスの心は揺らいだ。
アリスはアリス。そう先程スペードにも言ったはずだ。
だけど・・・昔と今が違うのも、また事実。
決心したはずなのにまた心が揺らめく。なんて、脆いのだろう。
「アリスは、ハンプティーはまともだと思ってたかもしれねぇけど、
実質名前はイカれてるがイカレ帽子屋が一番まともだぜ。
こいつも、ハンプティー・ダンプティーも狂ってやがる」
「狂ってない!!!」
弾かれるように、アリスは言い返した。
小さくダンプティーと時計兎が目を見開くのが見える。
「狂ってなんかないわ!ハンプティーダンプティーっていう人物は
ちょっと変人かもしれないけれど良いヒトよ!私はそう思う!」
―――少し、驚いた。
ハンプティーとダンプティーをアリスは今、同じ人間と見なした。
他の人間は個々と見るのに、だ。二重人格なのも全てひっくるめて
ハンプティー・ダンプティーという1人の人間と見ている。
やはり、以前と何一つアリスは変わらない。
記憶を無くしたのも、少し痴呆があるのだと思えば良い(アリスにとっては良くない)
「まぁ、アレだ。ちょっと変人つーのは余計」
ダンプティーは苦笑する。
「じゃあ、これからどんなことがあったとしても、見捨てるなよ?
ハンプティー・ダンプティーを」
挑発するような口調。
アリスも便乗し
「望むところよ」
そう言い放った。
〜時計兎君の嘆き〜
―皆さんこんにちは。これは私、時計兎の嘆きを語る場所です。
涼村 数少ない時計兎ファンにささげます!
―今回の話・・・ダンプティー本当に邪魔ですよね。
結局私が助けに行った意味ないのではorz
涼村 まぁまぁ、時計兎が助けに行かなかったら、
アリス完璧に処女喪失してたし。
―え!?そうだったんですか。意外です。
涼村 そうなんです。アリス生まれてこの方
男性と付き合ったこと無いから。初恋程度ならあるけどね。
―モテるのに勿体無い。でもその方が有難いです。
涼村 じゃあ嘆き(というより対談?)は終了!
〆に時計兎君から一言よろおね。
―よろおねって・・・いつの時代ですか、本当に。
じゃあ〆は「もしかしたらまた続くかも」です。
涼村 全然〆れてないじゃん・・・
ぐだぐだなまま終了。