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17.誰そ彼れ時と王の顔

 〜誰そ彼れ時と王の顔〜


黄昏時――――れ。

誰が誰かと見分けのつかないほどの黄金色の時。


この国の黄昏時は、何よりも美しい。


「お待たせ、アリス」


王冠を被っていないせいもあるだろうが、初めアリスはスペードが来たとき

一体誰なのかわからなかった。


「アリス?」


その声でやっと誰だか認識する。


「あ、何でもないです・・・そんなに待ってませんから」


ぶんぶんと手を横に振るアリスに、スペードはいつものような

微笑を浮かべる。


アリスの座っているベンチに腰掛けて

スペードはアリスを真っ直ぐ見つめると話し始めた。


「アリス・・・君は本当に記憶が無いんだね?」


確かめるようなスペードの問いに肯定すると、

スペードは顎を右手で押さえた。


「アリスからして、どういう感じだい?」


「え?」


主語のない問いかけに、アリスは首を傾げる。


「・・僕らだよ。以前のアリスとナイトメアやダイヤやクローバーは

 とても仲が良かった。でも、もうそれも憶えていないのだろう?

 僕はね、人と仲良くなるには、相手のことを良く知らないと駄目だと思う。

 でも、今のアリスはその段階を吹っ飛ばした状態で友人になれと

 言っているようなもの。アリスはそれをどう思う?」


探るような目でアリスを見る。


「あ・・・」


先程のような優しき瞳ではない。

紅蓮の炎が宿っているかのような紅の目。

穏やかな瞳が“狂眼”に変わった瞬間だった。


「わ、私・・・・」


アリスはぎゅっと目をつむる。

手もきつく握り締めて、拳をつくる。


「た、しかに・・時計兎もチェシャ猫も変態だし、

 皆変わっててヒトクセあるけど・・・・」


ヒトクセどころかフタクセ、ミツクセもあるだろう。

クセという言葉では締めくくれないほどの個性の濃さだ。


「でも!」


と、アリスは強く言い放った。


「悪い人たちでは無いということは、判る。だから大丈夫だとも思う。

 私は彼らを、そしてあなたを信じるわ!」


アリスは敬語すら忘れ、真剣な眼差しでスペードを見つめた。

スペードはというと、“狂眼”をフッと緩め、いつもの優しい瞳に戻る。


「その言葉、僕も信じるよ。アリス」


そこには王がいた。

国の頂点に立ち、時には国の命や、民の生命いのちさえも扱うことができる存在。

両親を亡くし、16という若くして王座についた青年、スペード。

臣下を信じ、自分も臣下に信じられる。

そんな青年の王の顔がここにはあった。


「所でアリス、敬語取れたね」


御免なさいとアリスが謝ってもスペードは顔を横へ振り、

この方が嬉しいとスペードは笑う。


アリスは夕陽よりも顔を朱に染め上げる。


(そんなことをサラッと・・・天然のタラシね・・・)


ふと、アリスは心にわだかまりを覚える。

考えるうちにそれが何なのか気付いた。


「あの、スペード。お願いがあるの」


言ってみてと促され、アリスは口を開いた。


「えぇ。・・・スペードは、私を前のアリスや今のアリスと言うけれど、

 私はどんなことがあっても“アリス”であることは変わらないわ。

 ・・・・今も、記憶を失う前も“アリス”よ」


そう例え、アリスの外見が変わったとしても、アリスはアリスだ。

アリスは自分が“アリス”であることに、どんと誇りを持っている。


「・・・そうだね」


スペードは少々驚いたような表情を見せたが、すぐに表情を戻すとこう言った。


「アリスは、アリスだ」



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