16.宣戦布告と会議 後編
〜宣戦布告と会議2〜
「記憶を無くしているから、連れて行かぬ方が良いのではないか?」
アリスを危険に晒すよりはマシだ。
男性陣はそう思ったが、1人異議を唱える者がいる。
「待て、俺はここに来る前アリスと戦ったが実力は落ちていない。
連れていっても問題無いだろう。それに・・・記憶が戻るキーワードに
なるかもしれないしな」
そう言われ、皆も納得した。
「だがっ危険だ!!!」
珍しいことにスペードが声を荒げる。
それに周囲も驚いたような表情になる。
スペード自身もこんなに大きな声をだして驚いていた。
「大丈夫だよぉ、スペード。もし危険でも、オレがいるしィ」
ニパッとチェシャ猫が笑い、アリスに抱きつこうとする。
「“オレ”じゃなくて“オレ達”でしょう、バカネコ」
が、時計兎によって阻まれた。
「スペード、心配しなくてもいいよ。ね、帽子屋」
「あぁ、アリスは俺等が守る」
そっとハンプティーがアリスの頭に手をのせた。
優しい手つきで撫でられる。
(なんか、懐かしい)
こんな状況、前にもあった気がする。
何だか懐かしい匂いがした。
「で、アリスちゃんはどうすんの?行く?行かへん?」
ダイヤの問いにアリスは
「行く!」
と即答で答えた。
「決まり、だな」
帽子屋がフッと口の端を上にあげた。
「ザ・ン・ネ・ンでしたね。スペード」
時計兎の意味有り気な言葉にそれぞれ、
「ん、どうしたの?皆・・・」
チェシャ猫はお腹を抱えて笑い、時計兎も小さく笑い、
ハンプティーも笑いを堪えながら、ごまかすように紅茶を口に持っていき、
帽子屋は手で口元を覆い、顔を逸らして笑いを堪えているようで、
ダイヤも吹き出し、クローバーは哀れみの目をスペードに向けていた。
スペードに至っては眉を寄せ、あからさまに不機嫌そうだ。
体から負のオーラが出ている始末。
(でも、怒ってても綺麗な顔だなぁ)
と、見とれてしまう。
こんな時でもそんなことを思うアリスは自分自身に呆れた。
「・・・全く、王である僕を笑うなんてね。他国では絶っっ対無いよ。
アリスとクローバー以外は今月給料ナシ」
ズバッと一刀両断でこのようなことを言う。
その瞬間、ダイヤとチェシャ猫がピシリと固まった。
ハンプティーたちは予想していたのか然程騒いでいない。
「なっんねんそれ!アリスちゃんはしゃーないとしても
なんでクローバーは罰受けてへんのや!」
「クローバーは“貴様等”と違って僕を笑わなかったからね。
何か文句でも?」
にっこりと笑ってはいるが、内容は全くの悪魔ぶりだ。
ダイヤが職権乱用や〜!といまだ騒いでいる。
「さてと、じゃあ今日は解散といこうか」
また明日に。と、告げてからスペードは会議室を出た。
しかし、出る前、こっそりアリスに耳打ちした。
「話したいことがあるんだ。後で中庭に居てくれないかい?」
アリスは返事をする代わりにスペードを見つめる。
スペードはフッと笑むとと、今度こそ出て行った。
話したいことって何だろう?とアリスが考えを巡らせていると
会議室一杯に帽子屋が淹れた紅茶の甘い香りが広がった。