14.黄昏の王とエース 後編
〜黄昏の王とエース2〜
「アリスは本当に変わってないね。
記憶喪失になったというのは本当?」
そうたずねるスペードにアリスはコクリとうなずいた。
「そう・・・でもよかった。例え記憶を失ったとしても
傷一つなく帰ってきてくれたのだから」
笑って言うスペードのお陰でその場に和やかな空気が流れた。
しかし、隣の女王によってそれは壊される。
「良くなんかないわよ、兄様!都合よく記憶なくして
どうせあんたがあたしにしたことも覚えてないんでしょ!!」
ビシッとハートに指を指され、アリスは困惑する。あまりの剣幕にたじろいてしまう。
「ハート、やめや。失礼やで」
すると右に立っていたダイヤがかばうように助け舟をだしてくれた。
スペードもそれに便乗する。
「やめないか、ハート。“あれ”は仕方のないことじゃないか」
「う、うるさい!どうせ兄様にあたしの気持ちなんて・・・!!
判る訳ないし、判ってほしくない!!!!」
ハートは場から逃げるように立ち去った。
「あ、の。“あれ”って・・・?」
アリス一人がついていけず、頭の上にはさぞかしクエスチョンマークがついていることだろう。
「・・・この話を聞いても、自分のせいだとか思わないでくれるかい?」
はい。とアリスが返事をすると、スペードはゆっくりと語りだした。
「ハートは、本来ならば反響の国の王の下へ嫁ぐ予定だった。
しかし王様は君を好きになってしまってね。
向こうが婚約破棄をしたんだ。ハートは嫁ぐ準備もしていたから
原因・・・ともいえる君を恨んだということさ・・・」
サカウラミ
という言葉がアリスの頭の中を駆け巡ったが、すぐに頭を振る。
ハートも哀れだ。政略結婚だとしてもそれは恨まれても仕方がない。
「アリス・・・どうかハートを見捨てないでほしい」
「大丈夫です」
微笑んで言うと、スペードも微笑み返した。
「じゃあ話も終わったことやし、改めて自己紹介といこか。
俺はエースクラスをしとるダイヤゆーねん」
ダイヤは人の良さそうな笑みをみせる。
陽のように明るく笑うダイヤは眩しくみえた。
スペードもダイヤの後に言葉を紡いだ。
「僕はスペード。この黄昏の国の王。
聞いてると思うけれど、ハートは女王で、僕の妹なんだ」
スペードは16歳のころ、王と女王であった父と母を亡くした。
と、いうのもなんと他国で暗殺されたらしい。
まだ少年ともいえるスペードを王として、少女といえるハートを女王として
黄昏の国の激動期が始まったのだ。
王の仕事は、他国との交渉や自国の武官文官の整理。
女王の仕事は、国王代理や自国の治安を守ること。
幼き頃から神童として知られていたスペードは王らしく
歳を重ねるたびに威厳を持ち、話術に優れた。
それに比べ、甘やかされて育ったハートは
女王が本来するはずの治安を守る所か掻き回してしまっている。
黄昏の国は王と女王が協力し合い、初めて国として起動する。
だが、ハートは王に負担を掛けさせるばかりなのだ。
次に左にいるクローバーが口を開いた。
「先ほど、城下町で会ったが、ジャックのクローバーだ。
アリスとは見習い武官時代の同期であったのだが」
一瞬、黄緑の瞳が悲しそうに揺らめく。
だが、アリスはそれに気付いてはいなかった。
「ナイトメア、行き成りで悪いのだけれど、話したいことがある。
ここでは侍女たちに聞かれ兼ねない。国家機密にしたいから会議室へ来てほしい」
こうして、アリスは重苦しい雰囲気からは解放された。
登場人物紹介
ダイヤ(19歳)
瞳:赤みがかかった黄色 髪:橙色
武器:体術
特技・・・勉学
趣味・・・体を動かすこと。
備考・・・左頬にダイヤマーク(オレンジ)がある。
黄昏の国の王の補佐。
おちゃらけているように見えるが実は真面目。
飄々としていてつかみ所のない性格。
武官ぽい文官で文武ともに秀でている。
喋り方が訛っていて、銅の一族の跡継ぎ(予定)
※銅の一族・・・黄昏の国の有力で昔からある一族。
一応親王家ではあるが、今の王を認めていない。
外交には干渉せず、厳しい一族である。
(銅の一族は喋り方が、ダイヤのように関西弁訛り)