12.ハート女王とジャック 後編
〜ハート女王とジャック2〜
眠りから覚めると、何だか騒がしかった。
近づいてみると女の子と男性が言い争いをしている。
ただ、単純にやりすぎだと思った。だから静止の声をかけた。
高々、服にケチャップを付けた程度で打ち首死刑だなんて。
これは、一体どうなっている・・・の?
チェシャ猫たちから聞いた王というのは優しい人だと。
でも、その王の妹の女王はどうなっているの?
その場では多くの疑問が混ざり合っていた。
アリスは王の妹であるハートが、王とは性格が真逆だから驚いている。
ハートは軟禁されていなくなり、清々したと思っていた
大嫌いなアリスがここに戻ってきたから驚いている。
それは周囲の人々も同じこと。
反響の国の王に見初められ、この国から消えた我が国の女性武官アリスがどうしてここにいる?
そもそも、ハートがここに居ることすら異質だろうに。
まるで時間が止まったようだった。
同じ金髪でも、淡い色のアリスと濃い色のハートでは見る人に違う印象を与える。
空のような蒼の瞳と、アザミのような紫の瞳はお互い見詰め合ったまま動かない。
また、人々もその場から動こうとはしなかったし、動く術も無かった。
しばらくして
「取り込み中の所すまぬが」
と、どこからか男の声がする。
人々の間を慣れた動作でかいくぐり、見詰め合う二人に近づいてきた人物。
「クローバー」
ハートがその男に向かってそう言った。
アリスは記憶の糸を辿り、この国で王の近衛を務める青年だと思い出す。
城に住むハートにとってとても良く見知った人物である。
アリスも記憶をなくす前はとても良く見知った人物であった。
「ハートを連れて来る様に頼まれたのでな、迎えにきた。
城には“悪夢のお茶会”のアリス以外は揃っている」
「ナイトメア・・・が揃ってるの?」
悪夢のお茶会。
アリス、時計兎、ハンプティー、チェシャ猫、帽子屋の5人の武官のことをまとめて言う呼び名だ。
悪夢由来はこの5人と戦うと、必ず数日間悪夢にうなされる。という説や
この5人が揃うと、辺り一面が悪夢のような地獄絵図となるという説。
お茶会の意味は、この5人はそれが敵地であっても・・・
いや、敵地であるからこそお茶会という名の会議を開く。
当初は普通の作戦会議だったのだが、何時の間にか気持ちを落ち付かせるという
名目でお茶を飲むようになった。それを見た敵兵がつけた・・・・・と一般的にはいわれている。
以上の理由から何時からかこの5人を総合し、
“悪夢のお茶会”略してナイトメアと
呼ぶようになったとアリスは帽子屋から聞いた。
「クローバー、どういうこと?アリスはなんでここに!?」
「うむ、落ち付け。アリスは反響の国から逃げてきたのだが
その際記憶喪失になったらしい。我々のことも誰だかわからないとのこと」
簡潔にそう告げた。
ハートは「記憶喪失・・・!?」と絶句している。
「あ、あの」
「アリス、某は城の使いであるから安心しても良い。
他の4人からも頼まれている」
クローバーの新緑の束ねた髪が風でなびく。
本当にクローバー色の綺麗な色の髪をしていた。
「いや、違うの。あの死刑って言われた人は見逃してあげれない?」
自分が口出しできることでは無いかもしれない。
けれど、人として言わなければならないと心の底から思った。
だからクローバーに頼んだだけであって、ハートが嫌いなわけでも、あの男性が好きなわけでもない。
ただ、ハートは人として間違っている。
ヘリオドール石のような黄緑色の何の感情も
無いように見据えた目は
「承知」
少し笑ったように優しくアリスを見た。
登場人物紹介
クローバー(18歳)
瞳:黄緑色 髪:新緑色
武器:刀
特技・・・暗記
趣味・・・刀の手入れ
備考・・・右頬にクローバーマーク(濃緑色)がある。
黄昏の国の王の近衛
和風を好み、古い喋り方をする。
見習い武官時代にアリスと同期。
アリスに淡い恋心をいただいている。
出身は東の島国「誇称の国」