10.王都への道中と他国の呼名 後編
〜王都への道中と他国の呼名2〜
そもそもアリスとチェシャ猫が相乗りしている理由はチェシャ猫が、
『アリスと一緒じゃないと行かないよぉ?』こう駄駄をこねたせいである。
「アリス」
と、その様子を見ていてもたってもいられなくなった時計兎が馬を歩ませて来た。
「大丈夫ですか?“バカネコ”の世話は疲れるでしょう?
なんなら私と相乗りしますか?」
にっこりとドス黒い笑みを絶やさず時計兎が言う。
アリスはその笑みに恐怖を感じ逃げ腰になってしまう。
「大丈夫だよぉ?年中発情してる“三月変態兎”よりはマシだからぁ」
しかしチェシャ猫は物怖じとせず言い返す。
そしてその瞬間、両者お互いから殺気という殺気が発した。
「(何です?チェシャ猫、この私に喧嘩でも売ってるんですか?)」
「(うん。オレのケンカは少々値が張るけどねぇ)」
「(いいでしょう、買ってあげますよ。ですがそれなりの覚悟はあるんでしょうね)」
アリスには2人の心の会話、つまりテレパシーが聞こえたが、こう思い込むことにする。
「(今のは幻聴よ!!!そうよそう。違いないわ)」
「あのハンプティー、帽子屋!相乗りさせてくれる?」
火花を散らす2人を放っておき、先頭にいた2人にそう呼びかけた。
「どうしてだい?チェシャ猫は?ケンカか・・・」
「あの2人仲悪いの?」
「仲悪いというか犬猿の仲だな。
いや、猫兎の仲というべきだな」
帽子屋が感慨深くそう言った。
くわしく聞くと、時計兎とチェシャ猫は獣人という種族同士らしい。
獣人は産まれてから10歳まで完全な獣の姿をしている。
10歳から今の時計兎とチェシャ猫のような半人半獣になり、成人と認められるのだ。
かつてあの2人が10歳未満のとき、時計兎はチェシャ猫に
食べられそうになったことがあったとか・・・
いくら時計兎とはいえ兎。兎VS猫では例え兎の方が年上でも猫のほうが強いだろう。
まぁ、こんなことがあってそれ以来、時計兎はチェシャ猫が大っ嫌いらしい。
チェシャ猫も、10歳を過ぎてから時計兎に逆襲され大っ嫌いだと。
「(ま、しかもそこにアリスがねぇ・・・)」
「(絡んでくるから余計厄介な仲になったんだが。本人は自覚なんて全くないしな)」
そのことを知らぬは本人ばかりなりであった。
「で、どっちか乗せて。早くしないと夕が暮れちゃうし。このまま止まっておくのも悪いから」
そうだ。先ほどから全くと言っていいほど進んでいない。
やはり、チェシャ猫にまかせるのは無理がある。人選ミス。だと帽子屋は思った。
「ハァ、じゃあ俺でいいんじゃないか?」
「ダメだよ」
帽子屋はそう言うがすぐに反対の声があがる。
ハンプティーだ。
「アリス、帽子屋は駄目だよ。“むっつり”だから。僕の方がいいよ?」
結局、ハンプティーもアリスと相乗りしたいだけだと思うが帽子屋は大人しく押し黙る。
「(俺だって、アリスと相乗りしたい。普通、当たり前だろう?何が嬉しくて
男と相乗りしなきゃならないんだ。・・・だいたい、むっつりってなんだこの“卵”!!)」
しかし内心では思いっきり毒づいている。
そんなこんなであまり進まないまま、1日を終えてしまうという事態。
次の日は死ぬ気で馬を走らせた(馬はご臨終様という程可哀想だが)そのおかげで城に着いたのだった。