9.王都への道中と他国の呼名 前編
〜王都への道中と他国の呼名1〜
パカラッパカラッと帽子屋の家から城を目指して馬を歩ませた。
「ねぇ、チェシャ猫」
「ん?なぁにー、アリス」
アリスは記憶喪失のせいで馬を上手く扱えないので、チェシャ猫と相乗りしていた。
「密かな疑問なんだけどね、この国って実質強いの?
反響の国とかも強い?・・・あと王ってどんな人?」
大まかには説明されたが、細かい所までは聞かされていない。
まだ城に着くまではこのペースまでいくと2日かかるらしいので、
どうせならとアリスはチェシャ猫に聞いてみた。
「正直、この国は強いよぉ。反響の国も強いけどねェ」
詳しく聞くと、黄昏の国は“量より質”らしい。
兵隊は他国と比べて小規模らしい。だが、武官1人1人が他国と比べ強い。
しかし、それとは対照的に反響の国は“質より量”派だそうだ。
大帝国なので人数がやたらと多い。
「まぁまぁ、この国はぁ結構周りの国から恐れられているらしいよォ?
確かにー、『イカレ帽子屋』にィ『三月白兎』とかぁ『殻のハンプティーダンプティー』、
『チェシャー猫』、『黄昏の国のアリス』とか屈強武官がいるしねぇ〜」
これらは他国でのアリスたちの呼名だ。イカレ帽子屋は言わずともわかる。
三月白兎とは、時計兎のことなのだ。3月はウサギの発情期。
その時期のウサギは気違いで、おまけに強い。なので時計兎も三月白兎と呼ばれている。
殻のハンプティーダンプティー。ハンプティーのことである。
しかし、詳しく意味はわからない。ハンプティーが卵料理好きということが
関係しているのだろうか。・・・よくこの意味は知られていない。
アリスとチェシャ猫の呼名はまんまだ。チェシャ猫はチェシャーの猫のようだから。
アリスは良い呼名が見つからなかったのか何なのか・・・・
自分の呼名が適当すぎることに、アリスは少々不満そうにした。
しかし、これらの呼名は全て・・・・見下して嘲っている。
“イカレ”や“3月”など呼ばれて嬉しがったりなどするはずも無い。
「・・で?王ってどんな人なの?」
「アリスゥこれ以上喋ると舌噛むよぉ」
こうサラリと流されてしまった。
「もう!答えてよね。答えてくれないなら良い。他の人に相乗りさせてもらってくるわ」
「えぇー!!アリスひどぉい。答えるからやめてェ」
と、手綱を握っていたチェシャ猫の腕が、アリスの腰にがっちりと固定されてしまう。
「ちょ、ちょっと・・!危ないからちゃんと手綱持って!」
「アリスが言うならァ」
(選択ミスだわ。何で、私とチェシャ猫が相乗りしてるの?)
心の叫びは誰とも知られること無く
空しくアリスの心の中でこだました。