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1.異世界来ちゃいました

私こと永田梨沙(ながたりさ)は一般的な家庭に生まれすくすくと育ち、現在は高校二年生だ。

いつものように通学していると、一匹の猫が車道に飛び出すのが見えた。


危ない!


そう思うと体が勝手に動き、私は猫の後を追いかけた。


「追いついた!」


何とか猫を捕まえ喜んでいると、クラクションの音が盛大に響いた。音の鳴った方を見るとトラックがこっちに向かってきていた。


忘れてた、ここは車道だ!逃げないと!

しかし、足が動かない。ああ、だめだ。私はここで死ぬのだろうか。梨沙は逃げることを諦め呆然とこちらに向かってくるトラックを見つめる。


「にゃあ。」


…っ!猫のこと忘れてた!せめてこの子だけでも。


「そこの子受け取って!そいやっ!」


歩道にいた女の子目掛けて思いっきり猫をぶん投げる。投げたと同時に梨沙はトラックにぶつかって吹っ飛ばされた。


薄れゆく意識の中で、うっすらと開けた目に女の子が猫をしっかりと抱きかかえているのを確認する。


「よか……た」


そこで意識は途切れた。





永田梨沙はトラックにはねられ死んだ。





*・*・*




再び目が覚めると、そこは真っ白な部屋だった。あれ、私死んだんじゃ…?隣には美少女が眠っている。え、美少女!?

黒髪のサラサラロングに目は閉じていて大きさは分からないが長いまつげ。こぶりながらもプルンと可愛らしい唇やすっきりした鼻が真っ白で綺麗な肌にある。女の子が憧れるザ・女子を形にしたような子だった。服的にこの子も私と同じ世界から来た子だろう。この子が来ている服は隣りの高校の制服に似ている。


「なぜ『異種の女神』が2人いる!?」


その声で周りを見渡す。部屋には人が10人くらいいて、その全員が私達を見ている。


50歳くらいの、いかにも王様といった風貌の人がそう叫んだ。

まわりはざわざわと騒がしく、その反応は様々だ。王様みたいな人のように驚いた声をあげている人もいれば、この世はもう終わりなんじゃ…と悲壮感ただよう声をあげている人もいる。

とりあえず、聞いてもいいだろうか。


「ここは異世界ですか?」


私のその問いによけいに周りがざわざわとうるさくなる。


なぜ異世界だと思ったか?だって、死んだと思ったあと、目が覚めたら知らない場所で見知らぬ格好の人達に囲まれてるなんて異世界トリップ小説の定番ではないか。周りの人々の服装は昔のヨーロッパの人々が着ていた物と似ている。

これが現代ならヨーロッパ風コスプレ会場とか?そんなわけないか。


なかなか答えてくれないのでもう一つ聞いてみる。


「私達はあなた方に召喚されたんですか?この世界を守るためとかなんとかで。」


「なぜ知っている!」


いきなり美少年に胸ぐらを掴まれる。うわ、イケメン。身なり的にも高そうな物を身につけているので地位は高いんだろうなぁ。でも、私より年下かな?全体的に幼い。


「なぜと言われても定番だからとしか。それに、私の推測で口にしたんですけど……もしかして図星でした?」


そう、定番。異世界トリップ小説の設定的には割と定番なのだ。世界を守る巫女を異世界から召喚って多いよね。私はそういう小説大好き!



「定番?どういう事だ!」


私の発言にさらに気を悪くした美少年は私に詰め寄ってきた。うわ、近いわ!離れろ!


「やめなさい、クラージュ。」


もうすぐで鼻先が触れ合うかというほど近づいたとき、柔らかい声で制止の声がかかる。

ちっ、と舌打ちをしてクラージュと呼ばれた美少年が離れていく。


「すみません。大丈夫ですか?」


そう声をかけてくれたのは柔らかなローブを身にまとった中性的な顔立ちのイケメンだった。


「あ、はい。大丈夫です。」


「よかった。私はエフォールといいます。あなたのお名前を教えてもらってもいいですか?」


エフォールさんはあくまでにこやかに聞いてきているが威圧がすごい。雰囲気的に早く教えろよゴラァという感じだ。

はたして本名を教えてもいいものか……悩んだ結果、名字は名乗らず名前だけ教えることにした。


「梨沙です。」


「リサさん、いきなりの事で戸惑うかもしれませんが少し話をしてもいいですか?」


「はい。」


いちいち許可を得てくるあたり、几帳面な人なのかな。


「それでは別室へと移動して話をさせてもらいます。そこで気を失っている彼女には目が覚めてからお話する事にしましょう。リサさん、ついて来てください。」


*・*・*



エフォールさんに案内された場所は豪華な部屋だった。低めの机の周りにとても座り心地が良さそうな椅子が並んでいる。ここはどんな部屋なのかとエフォールさんに尋ねると客間だそうだ。ここにお座り下さいと言われ、ふかふかの椅子に腰掛ける。うわ、座り心地良い!


「警護の者は下がれ。」


エフォールさんが命じると、兵士みたいな格好をした二人が部屋から出ていく。残ったのはクラージュさんとエフォールさんだけだ。


「さて、改めて自己紹介からさせていただきます。私の名はエフォール。国の政治に少し口出しをする魔法使いです。」


魔法使い。いよいよ現代では無くなってきたな。少しは期待していたが、無駄だったらしい。


「少しではないだろう……。」


「そして、こちらの方はこの国の第二王子であるクラージュ王子です。」


なるほど。どうして私よりも幼い子がいるのだろうと思っていたが、王子か。言われてみれば金髪碧眼だし、高そうな服を身につけてるし、それっぽいよね。


「お前、何か失礼なことを考えているだろう。……まぁいい。エフォール、説明しろ。」


「はいはい。」



エフォールさんの長々とした説明をまとめるとこんな感じだ。


ここ、ブレンズ王国では50年に1度大きな自然災害があるらしい。エフォールさんは自然災害のことを『神のお怒り』と言っていたが、話を聞く限り、地震や台風や噴火のことだろう。その『神の怒り』を鎮めるために『異種の女神』。つまり異世界から来た私のような女の子が生贄となり、『神の怒り』を鎮めるのだそうだ。

しかし、勝手に異世界から連れてこられて生贄にされるなんて身勝手にもほどがあるだろう。


「今回はどういう訳か召喚した『異種の女神』が2人いますが、このことについては後ほど調査いたしましょう。さて、あなた方にしていただきたいことは2つ。国民に平和の象徴である『異種の女神』の姿を示すこと。そして『神の怒り』を鎮める生贄になってもらうことです。」


「ちなみに拒否権は?」


「ありません。」


穏やかな表情のままばっさりと切られる。さようですか……。


「少し質問があるんですけど。」


「答えられることならば答えましょう。」


「本当に生贄となることで、国は救われるんですか?それと、生贄以外に国を救う方法はないんですか?」


「過去12回、『異種の女神』によって救われているのです。本当でしょう。他に方法はありませんね。」


その答えを聞き、残念に思いながらもほっとする。そうか、生贄になる事で絶対にこの国は助かるのか。そして、他に方法はない、と。


「なら、生贄になります。どうせ現代で私は死にました。今さらまだ生きたいとも思っていません。私が生贄となることでこの国の人々を救えるのならば喜んで引き受けます。」


「いいのですか?」


エフォールさんはよほど驚いているのだろう。エメラルドグリーンの美しい眼を精一杯大きく開いている。


「はい。あ、あともう一つだけ質問を。生贄となるってことは死ぬってことですか?」


「まぁ……そうですね。」


よかった。死ぬより辛い事をさせられたらどうしようと思っていたところだ。


「……変な方ですね。」


私の反応を見てエフォールさんは珍獣を見るような目で見てくる。ちょ、やめてよ!

しかし、エフォールさんが驚くのもわかるような気がする。きっと、今までの『異種の女神』は最初はとても泣いて拒否していた事だろう。かくいう私も現代で死んでいなかったらそうしていた。なんだろう。1度死んだことで妙に冷静になってしまったようだ。


「1つ、提案があります。もう一人の美少女いるじゃないですか?その子に表向きの『異種の女神』になってもらってはどうでしょう。」


「どういうことですか?」


エフォールさんは興味津々に尋ねてくる。対するクラージュ王子はさっきから黙ったままだ。

私は自分の考えを説明した。

私の考えとは、美少女を表向きの『異種の女神』に。私が裏の『異種の女神』になる。ということだ。

表向きとは、国民に姿を示すしたりするときは美少女に『異種の女神』をやってもらうということ。そして私は生贄の時だけ『異種の女神』になる。私は目立つことが苦手だ。それに平凡な私よりも絶対にあの美少女の方が女神っぽいもの。


「まぁ確かにあの方の方がお綺麗ですね。国民に示す『異種の女神』としてはうってつけでしょう。」


うるせぇ!妙に感心するな!自分で納得する分にはいいが、人に言われると腹立つ。


「それでいいのかよ。」


今まで黙っていたクラージュ王子が怒った声でそう言う。

どういうことだろうか。私は小首をかしげる。


「お前が生贄になってまで国民を救っても、すべて手柄は今まで国民に姿を示してきたもう一人の奴のものになるんだぞ?そしてそいつはお前が死んでも生き続ける。」


「はぁ、まぁそういう事になりますね。」


「ふざけるな!」


クラージュ王子が机をバンッと叩いた。び、びっくりした。


「俺は……自分の事すら大切に出来ない奴なんか嫌いだ!」


そう叫んだかと思うとクラージュ王子は勢いよく部屋を飛び出ていった。反抗期だろうか。その割には顔はとても苦しそうな表情をしていて……。


「すみません。あなたが誰かの姿とかぶったようだ。後で叱っておきます。さて、説明は終わりました。先ほどのあなたの案は考えておきます。部屋へ案内するのでついて来てください。」


誰か……?疑問に思いながらも私はエフォールさんについて行った。


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