第3話 占い師ミセスブラウン
「大丈夫ですか?」
私はおそるおそる、変なおばさんに歩み寄った。
「あなたの方こそ大丈夫? 何かあったんでしょう? 私に話してごらんなさい。ほら、このイスに座って。さあさあ!」
おばさんが艶やかな声でそう言った。明らかに助けを求める人の声色ではない。私は内心、「やっぱりだまされたぁ!!」と思った。
「別に大丈夫です。でわ」
私はその場から再び逃げようとした。
「ちょ、ちょっとまってよぉ~!」
おばさんは急に泣き出した。
「ヒィック、ヒィック……ちょっとくらい話聞いていってくれても……ヒィック……いいじゃ……ヒィック……ないのよぉ……ヒィック……」
四、五十歳のおばさんが全力で泣く姿に、さすがの私もドン引きした。
「わかりました……」
私はしぶしぶイスに座り、おばさんにハンカチを差し出した。
「ありがとう……」
おばさんは私のハンカチで涙を拭き、鼻をかんだ。
「はい、これ返すわ」
「いりません。汚いです。捨ててください」
私はハンカチを失った。
「自己紹介がまだだったわね。私の名前は『ミセスブラウン』占い師やってまぁーす。あなたのお名前は? 久し振りのお客様だから今日は張り切っちゃうわよぉ」
ミセスブラウンって……うさん臭! ってかいつの間にか私、客として扱われているし。……まぁ、いいか。特に用事もない気ままな旅だ。
「あなた、名前は?」
「えーっと、エミです。西條エミです」
「誕生日は?」
「五月二十日生まれのおうし座です」
「出身は?」
「京都です」
「仕事は?」
「学生です」
「大学生?」
「はいそうです」
「今付き合っている人は?」
「いません」
「じゃあ好きな人は?」
「……います」
とまぁこんなふうに約一時間におよぶ質問(ほぼ尋問に近い)が続いた。
「……はい。わかりました。では、これから占いを始めましょう……むむむ、見えます、あなたの心が見えます。あなた最近失恋しましたね?」
えぇ! うそ! 何でわかったんですか……なんて言うかボケェ!! 散々さっき質問していたくせに! さも自分が占いで言い当てました、見たいな顔してんじゃねーよ、このデブクソババァ!
「えぇ、実は一昨日フラれたんです」
私は心とは裏腹に冷静な口調でミセスブラウンの茶番に便乗することにした。
「そう、それは大変だったわね。話聞かせて頂戴」