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涙の味のお米  作者: ストレッサー将軍
第3章 『別れ』
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第20話 前に進むために


「あ、もしもし? 拝田さんですか? 西条エミです。実は……」


 共同生活九日目。

 私達はみんなでトモちゃんの今後について一日中話し合った。

 

 まず、真っ先に決まったのは『子供を生む』ということ。そして、そのことについて『トモちゃんのお父さんに話す』ということだった。そのほかに、彼氏のこと、通院のこと、食事のことを話し合った。さらに、後半には子供の名前を話し合ったりして、久し振りに楽しい談笑をした。

 その話し合いの中で、どうやってトモちゃんのお父さんとコンタクトを取るかということが問題となった。トモちゃんのお父さんである川島刑事は私用と仕事用二つの携帯電話を持っていて、仕事中は私用の携帯電話にかけてもつながらないのだとか。トモちゃんは川島刑事の私用の携帯番号しか知らず、ためしに電話しても出てくれなかった。

 そこで、誰か警察関係者に知り合いはいないかという話になり、私が拝田刑事とメルトモだとポロっと言ったら、拝田刑事に連絡をとることになったのだ。




「……ということで、川島刑事と連絡をとりたいんですけど、川島刑事の携帯の番号なんて知りませんよね?」


 私は言っては悪いが、みすぼらしい風貌の拝田刑事が、テレビにも多く出演しているあの有名な川島刑事の連絡先を知っているとは思っていなかった。


「川島くんの連絡先ですか? 知っていますよ。彼は私の後輩ですからね」


「ほ、ほんとうですか!?」


 私は信じられない気持ちだった。


「ほんとうですよ。これでも刑事生活長いですからね。彼がまだ無名の新人のときにはいろいろと教えてやったものです」


 拝田刑事は意外とすごい刑事さんなのかもしれないと私は思った。


「でも、いくらエミさんの頼みとはいえ、刑事の携帯番号を他人に教えるというのはちょっと……」


「え? ダメですか? 川島刑事の娘さんが連絡をとるだけです。絶対に悪用しませんから! お願いします!」


「うーん、そう言われましても……。刑事にとってそういうパーソナルな情報の守秘は死活問題ですし……」


 拝田刑事は「うーん」という唸り声を上げていて、困っている雰囲気が電話越しからも伝わり、少し気が引けた。でも、ここで引いたらトモちゃんは前に進めないと思い、私は必至に頼んだ。


「お願いします。お願いします。お願いします……」


「…………」


 拝田刑事は数秒黙り、口を開いた。


「……やっぱり、携帯の番号を教えることはできません。でも、川島刑事を呼び出すだけなら可能ですから、それでもいいのであれば協力しましょう」


「ほんとですか! それでいいです。充分です。お願いします!!」


 私は携帯を思いっきり頬に押し当てて喜んだ。


「それでは日時と場所は後ほどメールします。あと、今度エミさんにも協力してもらいますからね。それでわ」


 そう言うと拝田さんは一方的に電話を切った。


「え、あ?? 今度協力って? 何を? ……まぁ、いいか。とりあえず、川島刑事を呼び出してくれるって言っていたし」


 ふと、携帯を見ると画面に大量の化粧パウダーが着いていた。さっき頬に携帯を押し当てたときに付いたのだろう。後でお化粧し直さないと。

 私はそんなことを考えながらみんなのところに戻った。





 一時間くらい経ってから携帯にメールの着信があった。メールの文面には


『明日の夕刻、図書館前にて待つ』


 と、絵文字無しで書かれていた。拝田さん、果たし状じゃあないんだから……。


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