第1話 失恋
~プロローグ~
『そうだ、京都へ行こう』
旅行か……悪くないかも。でも、私は生まれも育ちも京都の女。だから、京都以外にしよう。そう思ったとき、ふと目に付いたのは先ほどから食していた、ほのかにしょっぱい、涙の味のお米。
『そうだ、新潟へ行こう』
かくして、私は失恋から八時間と五分十二秒後に新潟へ行くことを決めた。
私は必要最低限の荷物だけを持ち、京都発の夜行列車に飛び乗った。
第1章 『出会い』
第1話 失恋
『ごめん、君とは付き合えない』
そう言われてすぐ、私は全速力でその場から逃げ出した。五分くらい走り、息が上がってきたので、私は歩道の端でうずくまった。すると、涙が滝のように溢れてきた。とても悲しいと思った、のもつかの間すぐに私をフッタあの男に対する怒りが込み上げてきた、かと思えば自分は何の価値もないだめ人間だと自らを蔑んだ。
気がつくと空には夕陽が浮かんでいた。私は見たいテレビがあったことを思い出し、家路についた。
「ぐぅー」
家に着くと同時に腹の泣く音が聞こえた。腹よ、お前も泣いているのかい? お前も悲しいのか……。そんなことを思いながら私は「ハラヘッタ」とロボットのように抑揚を付けずに呟き、米を炊いた。商店街の福引で当てた一等の魚沼産コシヒカリ。狙っていたのは二等のマウンテンバイク。ほんとうに欲しかったのはあなたの愛……。そんなことを思いながら炊き上がった白米をほおばる、うまし! いつも食べている悪米とはレベルが違う。
「このまろやかな甘みはまるで海を泳ぐ鯨の様に雄大で奥深い。そしてこのやわらかさはまるで大地に根付く大樹の枝に波打つ葉のようだ」
などと訳のわからない評論家気取りの独り言を呟き、食す。題して『一人評論家ごっこ』……こんなしょうもないことをしていると少しだけ気がまぎれた。
そんなとき目にしたのが『そうだ、京都へ行こう』と書かれた京都の観光宣伝用のポスターだった。私は基本的に旅が好きだ。商店街の福引でマウンテンバイクを狙っていたのも自転車の旅に憧れていたからだ。しかし、私は一人で旅したことは一度もなかった。私は旅に憧れてはいるのだが、旅に出るまでの準備とか下調べが面倒で、行動に移すことは今までなかった。
そんな私だが、失恋パワーでここまで来た。
―――そう、今まさに私は新潟駅に降り立ったのだ!