memory
僕は今、部屋を掃除している。小学一年生から高校三年生の現在まで、ずっと使ってきた部屋だ。思い出はたくさんあるし、愛着のある部屋だ。僕はあと一週間程で高校を卒業し、東京の大学に通うために東京で一人暮らしをしなければならない。大体のことは済ませてあるので、後はやる事は部屋の片付けなのだ。あんまり物が多い部屋ではないけど、机の引き出しの奥には様々な思い出が残っていた。
始めに、小学校のときに好きだった子に書いたラブレター。汚い字で、あの頃の僕の気持ちが書いてある。結局ラブレターは出されることがないまま、引き出しの奥に眠った。「懐かしいなぁ…」あの頃は好きな女の子をいじめてたっけ。今思うと少し胸が痛む。
次は、将来の夢と書いてある作文、これは中二で書いたものだった。さっきよりはきれいで、それでも汚い字で書いてある。。「え〜と…僕の将来の夢は、医者になって苦るしんでいる人を助けたいです。か…」僕はあの時のことを思い出す。「そう言えば、僕が医者を目指すきっかけは…あの人だったな」それは僕の中一の一番大事な記憶。
中学一年の秋頃、僕は盲腸で入院した。遊び盛りの中一には、入院はつまらないものだった。入院から三日目、病院の屋上に行くと、手すりに寄りかかっている女性がいた。この時の僕には、その女性の思いつめた感じなど分からなかった。だから普通に話しかけた。「こんにちはっ」女性は声に気づいてこちらを向いた。「こんにちは」微笑んで返してくれた女性に、僕の胸はときめいた。今思えば、青かったなぁと恥じる。
「何をしているんですか?」どう見ても年上なので、敬語を使う。女性は答える。「町を眺めていたの」僕も横に並び、町を見渡してみた。「きれいでしょう?」「はい…」自分が住んでいるいつもの町には見えなかった。少しの間、僕は風景に見入っていた。「いつか私も…」見入っていたから、女性の呟きは全部聞き取れなかった。「何か言いました?」「ううん、なんでもないの」女性は首を振る。僕は疑問に思ったが、邪魔になったら悪いので、病室に戻ることにした。「邪魔しちゃってすいません、僕行きますね」「邪魔だなんて…また来てね」女性の微笑みはすごく綺麗だった。
病室に帰り、だらだら過ごす。それでも、頭にあるのはさっきの女性のことだった。歳は19ぐらいかな?身長は160ないぐらいだろう、髪は長くてさらさらしていた。そして、女性の微笑んだ時のあのきれいさは、僕の心をわしづかみにしていた。色々と思いをめぐらす。あの人のことをもっと知りたいな、明日聞いてみよう。そんなことを考えていたら、気づいたら朝になっていた。どうやら寝てしまったようだ。そんな訳で、今日も屋上に行く。昨日のように、女性はそこにいた。「おはよーございます」声に気づき、こちらを向く。「おはよう」昨日と同じ微笑み、僕は胸が高鳴った。横に並び色々質問してみる。「お姉さんはいくつですか?」唐突な質問に、女性はちゃんと答えてくれた。「私は16歳よ、君は?」「僕は13歳。お姉さんって大人びて見えますね」「そうかな?よく言われるけど…なんでそう見えるか教えてくれる?」「ふいんきが落ち着いてる感じです」女性はくすっと笑う。「ふんいき、ね。私は落ち着いてなんかいないんだけどなぁ…」ふぅ、とため息。僕は間違いを指摘されたので赤くなっていた。それでも、質問はする。「お姉さんはどこが悪くて入院してるんですか?」「私は…」女性は言葉に詰まる。聞いちゃいけないことを聞いたかな、と思っていると。「私は頭が悪くて」と笑いながら言う。「そうなんだ!?じゃあ僕一生入院しないと…」真に受ける僕。女性は、あははと声を出して笑う。「面白い子だね。君、名前は?」「僕は行成って言います。お姉さんは?」「私は小雪、よろしくね行成君」「はい、よろしくです小雪さん」僕はなんか嬉しかった。それからてきと〜に話し、僕らは別れた。すごく楽しい時間だった。
次の日も、その次の日も、僕は小雪さんと話していた。そして入院してから七日目、僕の退院の日だった。正直、小雪さんと別れるのは寂しかった。僕は最後に屋上に行った。そこに小雪さんはいなかった。「あれ?」僕は受付に行き、小雪さんの病室を聞いた。看護婦さんは病室を教えてくれなかったが、小雪さんから僕宛の手紙を預かっていたらしく、それを受け取った。すぐに読みたい気持ちを抑えて、家についてからゆっくりと読む。
「まずは退院おめでとう、がんばって学校いくのよ〜、元気が一番なんだからね?実は行成君に謝らないといけないことがあるの。私、生まれたときから心臓が弱くて、ほとんど入院生活を送っているの、医者にもよく言われるわ、いつ死んでもおかしくないって。医者がそんなこといっていいのか〜って思っちゃうよね。でもまだ死んだわけでないので、安心してください。行成君がこれを読んでいる頃、私は東京の大学病院に向かってるはずです。今更無駄なのにね。何回も病院をかえても、だめだって事は私が一番わかってるから。病院移る前に、行成君に会えてよかったよ。友達なんて、私にはほとんどいないから…。すごく楽しかったよ。またいつか、会えたらいいね。ん…あはは、少し涙出ちゃったよ。涙もろくてだめだね私。それじゃまたね。小雪より」
僕は泣いていた。手紙を握り締め、ただただ泣いていた。彼女の落ち着いたふんいきが分かった気がした。一日一日を、死の恐怖に怯えながら生きている彼女。僕なんかとは比べ物にならなかった。それから僕は医者を目指すことにした。苦しんでる人を助けたかった、それに…。
タラリラ〜という着信音で、僕は現実に戻される。この着信音は、特別な人のもなので、出ないわけにはいかない。「はい。うん、今片付けてますよ。やっとですよ、長かった…。はい、分かりました。それじゃまた」僕は電話を切る。さて片付けるか。思い出の品は全部持っていく、あの手紙ももちろんだ。久しぶりに…読んであげよう、きっと驚くだろう。僕はかなりにやけながら、片づけを始めた。
苦しんでる人を助けたかった、それに…小雪さんのそばにいれるから。それが僕が、医者になる理由だ。
地味に書いてなかったりするこれのサイドストーリーなんかもあるんですが、文中に書く機会見失ったんですよねぇ…まぁ完結ということですいません




