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東谷 椿、十六歳の春

馬鹿馬鹿しい話だけれど、お伽話はどうして三女が大人しいのか。



シンデレラしかり、美女と野獣しかり、青髭しかり。



三人姉妹の末娘たちは、揃いも揃って分不相応なお姫様願望を持っている。

アタシにはそれが不思議でならない。


何故なら我が家は三女がまったく女の子らしさのおの字も持っていないからだ。



皮肉なことに、その三女とは他ならぬアタシのことなのだが。




そう、うちの三人姉妹は何かがおかしい。


長女、牡丹は夏生まれ。おしとやかで優しい読書家、平和主義。

次女、桜は春生まれ。多趣味多芸の大和撫子、家族思い。

そしてアタシ、三女椿は冬生まれ。家事も勉強も大嫌い。家事は嫌だが火事は歓迎、学校なんか燃えちまえ。



一体全体、どこをどうまかり間違って、アタシがふたりの妹として生まれてきたのか分からない。



ことの発端は何かというと、これしかあるまい。父と母のお見合い結婚だ。

全ての不幸はそこから派生したのだ。


結婚二年目、牡丹が生まれ、六年目で桜誕生、更に五年後、なんと結婚十一年目、アタシ椿が無事生誕。



父は長きに渡り頑張りすぎたか、そのまま帰らぬ人となりました。




そこから先は、聞くも涙、語るも涙の貧乏生活。


女の細腕一本で、母は三姉妹を育て上げるべく日々奔走。



昼はスーパー、夜はスナック。


いやはや、女は弱くとも母は強し。叔母の援助を断って、母は女手ひとつを貫いた。



そしてアタシたち三姉妹も、これからは母を手伝い女四人で倹しく生きていくものだと信じていた。



そんなある日のことでございます。




猫の額ほどの狭い台所に手紙が一通。牡丹、桜、椿の三姉妹は、それを見て悲鳴を上げる。



「私の愛する三人娘へ。

 母、疲れた。

 というわけで、西園寺の叔母さまと一緒に世界一周お昼寝バカンスに行くことにしました。意地張ってるのも馬鹿らしいから、こうなったらとことん叔母さまに甘えるつもり。

 あなたたちの面倒は、西園寺家がみてくれるそうです。 かわいい私のお花ちゃんたち、意地を張ると、女は幸せになれないからね!

 母より」




「まあ、困るわ、母さんたら。椿の学校もあるっていうのに」

と、長女牡丹。


「でも、まあ、西園寺の叔母さまとなら安心よ。所在も分かるし、よかったわ」

と、次女桜。



ちょっと待て! と、アタシ、三女椿は喝を入れる。



そういう次元の話じゃなくない?




しかし、おっとり姉さまたちは、これっぽっちも気がついちゃいなかった。



「大丈夫よ、椿。西園寺さんちのところのご長男、とっても優しい方だもの」


「心配いらないわ、椿。あそこの三兄弟とは、昔よく遊んだじゃないの。知らない仲じゃあないんだし」




ええ、そりゃあもう、ようくご存知ですわよと、アタシ、三女椿は心の中で苦虫を噛んだ。



西園寺家の三兄弟と、アタシたち、東谷家の三姉妹はいとこ同士。


西園寺家の長男、傑は自信過剰の嫌味野郎で、アタシ、三女・椿をぺんぺん草とせせら笑った過去を持つ。


西園寺家の次男、護は無神経なスポーツ馬鹿で、アタシ、三女・椿を鈍臭いと見下した。



そのくせアタシよりも数倍とろい西園寺家三男、学を溺愛していて、学が泣き声を上げようものなら地球の裏側からだって飛んでくる。



そんなパブロフの犬ならぬ、三男・学の狂犬どもと、これから同居? ふざけるな!




そう思ってはみたものの、アタシ、三女・椿は十六歳。拒否権などあろうはずもない。



かくして、西園寺家三兄弟と、東谷家三姉妹の、奇妙な同居生活の幕開けとなったのでございます。

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