【第5話『消去のアルゴリズム』】
赤い制服に導かれたZEROは、次元の狭間のような空間に迷い込んでいた。
そこは、教室の形をしているが、机も椅子も歪んでおり、黒板は何重にも重なって文字が判別できない。
ただ、ひとつだけ明確に“存在”していた。
――座っている、生徒たち。
整然と並んだ生徒の姿。だが、彼らの顔はすべて塗り潰されていた。いや、顔という概念そのものがない。
無数の“消去された”人間たちの、存在の残骸。
「ここが、“除籍処理”の果てか……!」
ZEROが仮面を握る。すぐにLUNAから通信が入った。
『ここ、現実世界と微妙にズレてる。まるで削除されたデータのゴミ箱みたいな空間よ』
「なら、救える。削除前の“履歴”が残ってるなら――復元も可能なはずだ」
その瞬間、黒板が揺れ、そこから“黒衣の教師”が姿を現した。
黒板の文字が染み出し、人型となった存在。それは、プログラムの番人のような存在だった。
「校則は、絶対だ。違反者は、存在を消される……それがこの学園の真理」
「だったら、その真理ごと、塗り替えてやるさ」
ZEROの仮面が輝き、手の中に「変換キー」が出現する。
それは《記録の修復》――一度消されたデータを、一時的に呼び戻す力を持つアーティファクト。
黒衣の教師が黒板を引き裂くと、そこから現れたのは“赤く塗り潰された名簿”だった。
生徒たちの名が、ひとつずつ赤で消されていく。
「ルールに従えない者は、名を奪われ、存在も奪われる。それがこの学園のルールだ」
「違う。“ルール”は、誰かが作った。なら――壊せる」
ZEROは名簿に変換キーを叩きつけた。
――パキン!
その音と共に、名簿に走った赤い線が逆流し、数名の名前が復元される。
『履歴復元成功。3秒以内に座標転送を開始して!』
LUNAの声と同時に、学園の外にいるはずの少女が1人、転送されて現れた。
「え……私、生きてる……?」
ZEROは微笑む。
「君は“違反者”じゃない。消されたのは、意思を持つ者を恐れる“ルール”の方さ」
黒衣の教師が崩れ、黒板の世界がひび割れた。
「消されていい存在なんていない。少なくとも、俺の知る“正義”にはな」
仮面を外しかけたZEROの目が、強く輝いた――。