⑤思考停止
「えー、うぉっほん! それでは本番という事で―――」
僭越ながらとザイアスが立ち上がる。
「相田! よく生き残ったな!」
「え!? 俺っすか?」
乾杯の音頭でいきなり名前を呼ばれ、目を大きくさせた相田は空いた手で自分を指さした。
「何言ってるんだ。今日はあんたの初陣と生還祝いだよ」
眉をひそめたシリアが口を尖らせる。
「もしかして隊長から聞いていないのかい?」
テヌールがその一言を漏らすと、今度は全員の目が一気にデニスへと向けられた。
「ああ………まぁ、何だ! こ、こういうのは秘密の方が面白いだろう?」
デニスが相田に向かって渋く片目を瞑った。
「さすが隊長! では今日はごちになります! それでは、乾杯っ!」
「「「「「「乾杯!」」」」」」「ちょ、ちょっと待てぇ!」
デニスの焦りを無視する形で、ザイアスの言葉を合図に七つの大ジョッキが空中でぶつかり合い、音を響かせた。
「ありがとうございます!」
相田は立ち上がって全員にジョッキを掲げながら頭を下げると、一気にそれを飲み干した。訓練による疲労の毎日で、ここに連れて来られてからは酒を飲む機会がなかった。久々に体内に入れた酒は、体を驚かせて全身に鳥肌を立たせる。
「くぅっ!」
相田は口周りに白髭を残しながらジョッキを空にすると、そのままテーブルに置いた。同時にポーン以外の面々がジョッキの中を飲み干し、テーブルの上に空になったジョッキが次々と置かれていく。
「ぷはぁ。いやぁ、本当! めでたいねぇ!」
「………店員さん?」
相田が、サージンのジョッキを女性店員が一気に飲み干した姿を見るなり、首を傾げた。
何度か瞬きをして、酔い始めた思考を巡らせる。
そしてシリアに上半身を寄せ、小声で尋ねてみた。
「………ここでは、乾杯の時に店員さんも一緒に飲むんですか?」
「は、店員?」
シリアは女性店員を眺めると、『ああ』と思い出したように女性店員を指さした。
「サージンだよ」「うええええぇぇぇぇっ!」
「どうもー、初めまして」
ガールズバー並みの軽い挨拶で、女性店員が相田に手を振る。
口の中が空だった事が幸いし、相田は噴き出さずに済んだ。
肩まで届く茶髪の女性店員は、耳の前で編み込んだ触覚のような髪を降ろしている。鼻周りに派手なそばかすがあり、思い切り美人ではないが飲み屋で働く女子大生に相応しい姿を体現させていた。




