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Lost12 優しき青年は、冷酷な魔の王になれるのか  作者: JHST
第一章 余所者が一人
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⑤魔女の森

――――――――――


 アイダは机の上と引き出しの中から鉛筆や消しゴム、何冊かの無地のノートを取り出し、大学に通う時に使っていたリュックの中に詰め込んだ。

 この世界にも一応の紙と呼べる物はある。そして色さえ気にしなければ、庶民であっても安価で手に入る。だがノートのように使いやすい冊子になってはいない。今では、中学生の頃から無駄に買い漁った鉛筆の束や安物の消しゴムの束が宝の山に見える程に貴重な品である。


「これで、よし」

 勉強の為に消費した文具の補充を済ませ、アイダは部屋を後にする。

 そして歩く事一時間。

 大体の順路は体が覚えていた。また、遭難時に使用した赤色のスズランテープが、まるでガードレールの様に木々の間で結ばれており、それらを視界に収めながら街道へと向かうことで、より確実に抜ける事が出来る。深い森の中、方角も時間も分からない中で探索を続け、四日目にして探し当てた努力と知恵の結晶である。


 魔女の森を抜けると、南北に貫く一本の街道が姿を現した。街道といっても、左右の森を切り拓き、馬車がすれ違いで通れる土道で、アスファルトなどあるはずもなく、かといって石材で舗装されている程、豊かでもない、唯の平凡な道である。


 そして、リール達との出会いはこの場所でもあった。

 部屋に置いてあったインスタント食品が尽きたアイダは、街灯もないこの道を発見してからと言うものの、誰かが来るのを何時間も待っていると、一台の馬車が現れる。

 それが、彼女達であった。

 しかし、そこへ道を挟んで反対側の茂みから猪のような人間が飛び出し、馬の叫びと共に馬車の前に立ち止まると、馬車の人達を襲い始めたのである。


―――オーク。


 アイダのもつ知識で表せる言葉はそれしかなかった。寸胴だが腕は丸太の様に太く、武器等なくとも、腕力だけで人間の首を容易くへし折りそうな太さを持つ。

 定番のパターンではあったが、オークは喉から鼻へ通り抜けるような鳴き声で意思の疎通を図ると、もう一匹のオークが茂みから現れ、荷台の上に載っていた樽の中を漁り始めた。

 相手の金品を奪うか、さらに人間も掴まえて食すのか。馬車から降ろされた哀れな旅人一家の怯える顔をアイダは見続けていた。

 手の中で握っているのは、キャンプで使う折り畳みのナイフが一本のみ。長さでいえば『ひのきのぼう』の方が心強く感じる。

 特別な力も才能もなく、英雄のような存在も、勇者と呼ばれる者達もどこかへ出張中なのか、重要な場面であるにも関わらず一向に現れない。


 そこからのアイダの記憶は朧気であった。

 ただ、少女の悲鳴が全てのきっかけだった事は覚えている。


 気が付けば、アイダは見張りのオークの喉元に向かってナイフを突き立てていた。

 次の記憶では目の前で倒れ込む二匹目のオークの姿があった。

 無我夢中で倒していた事、最後は疲労と緊張の開放感から、オークの血と体液に塗れながら倒れ込んだのだとリール達から聞かされている。





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