⑩覚醒
「………わぉ」
相田の正面には何もなかった。
つい数分前まで森があった場所に、それが無かった。まるで竜巻でも通ったのかというように、直線上の木々は黒く焦げた状態でなぎ倒され、その十数メートル先ではこの広場よりも遥かに巨大な焼け焦げた空間ができていた。
視界を占める空の面積が倍になり、多くの星々が地面を照らしている。
「いやはや………予想通りと言うべきか、予想外と言うべきか」
元気そうに立ち上がったテヌールは自分で投げた杖を拾い、汚れた裾の部分を杖で軽く払った。
そして杖の先で相田の頭を軽く小突く。
「やれば出来るじゃないか………と、いうより………一体何をしたらそうなるの説明してくれんか?」
「いや。自分でもさっぱりでして」
相田も自分こそ説明して欲しいと、頭に片手を置く。
「もしや相田君。君はあの火球を跳ね返した後の事も考えていたのではないかね?」
「ええ。バーンと跳ね返して、せっかくなので敵にドカーン、とぶつけてやろうと思いました」
それだ、とテヌールは相田を指さし、そのまま手で顔を拭った。
「隊長………彼は、とんでもない拾いものだよ」
自分でも信じられないと、テヌールが顔に手を当てたまま大笑いする。
「テヌール、説明してくれ。さっきはお前の演技に乗ったが、我々はまだ何も理解出来ていない」
「………演技?」
デニスの一言に相田は顔をしかめた。
「どこまで………?」
全員に視線を移す。
「全部さ。魔法を弾くような、そんな国宝級の装備を我々に預ける訳ないだろう。子どもでも分かる意地の悪い嘘さ」
シリアの呆れた笑いに合わせるように、ザイアスも必死に何度も頷く。
「でも、自分………敵の魔法をきっかり弾いてるんですけど?」
「それが君の力だよ」
テヌールは自分の勘が当たったと、自慢気に相田の肩を叩く。
「信じがたい事だが、君は想像した事を魔法として具現化させる力をもっている」
「はぁ?」
あまりの表現に、思わず相田は首をかしげた。
つまりだ、とテヌールが話を続ける。
「あの火球を弾こうと想像したから弾けた。さらに弾いた球で反撃しようと考えたから、その通りになった。まぁ、そんなとこだろう」
「じゃ、じゃぁ、何ですか? もしあの月をぶち壊そうとイメージしたら、壊せるんですか?」
相田は空に浮かぶ月の大きい方を指さした。
そんな馬鹿な話はない。相田が知っているファンタジー要素の中でも、とびっきりぶっ飛んだ能力だった。イメージが現実化する能力、中二病の人間には、おちおち妄想も冗談すら考える事が出来ない。
だが、テヌールは首を左右に振った。
「今までの魔法知識では説明出来ない体系故、確証も何とも言えないが、恐らくその力も非常にいい加減で不安定なんだろう。まぁ、今までの訓練で一度も出なかった事や、君が過去に一度だけ出した事があるという話を合わせての予想にしか過ぎないが―――」
力を発動させる条件には、必要な集中力やイメージの具体性、そして何より自分の命に関わる程の危機感や覚悟が必要になってくるのだろうと、テヌールが仮説を立てる。




