⑥異質な現実
―――次があれば。
相田はその短い言葉を口にする事なく、更け始めた空に輝く星を眺め続けた。既に空の七割は、夜に向けた準備を終えている。
「何を考えている」
無言になった相田に、大魔王が声をかける。互いの視線は合わないまま、独り言の会話が進んでいく。
「………コルティ達は大丈夫かと」
「自分の事よりもか?」
「よりも、だ」
それも人が力を得る条件なのかと、大魔王が真面目に尋ねてきた。相田は深く考えず、適当な言葉で肯定すると、大魔王に伝言を頼んだ。
静かに言葉が交わされる。
「………伝言というよりも、願望や依頼に近い表現と内容だが。まぁ、良いだろう。余には無限に近い時間がある。時には人間の真似事も悪くはない」
人の真似事から、人の力を得る。それも一興だと、大魔王は小さく肩を揺らしながら相田の伝言を受け入れた。
そして二人の言葉が止まり、互いに口を閉じる。
空気が変わっていた。
それに、大魔王が気付くのにそう時間はかからなかった。
「どうやら………貴様が望んだ平穏な時間とやらは、そう長くは続かないようだ」
「それは残念だ。まぁ………短い方が、その大切さが身に染みるってもんさ」
次第に聞こえてくる何かを叩く音。それが手を叩く音であり、拍手である事に気付くのに、相田も時間を要しなかった。
相田と大魔王が、どこからか現れた青年に視線を伸ばす。
彼の見た目は二十歳前後。学生よりも世の中の仕組みを悟っているような伸びた背筋、社会の歯車に慣れてしまった大人にはない充実した青い瞳をもっていた。
「いやぁ、凄い。部下の報告を聞いて興味半分で来てみれば………街が一つ消えているなんてさ。予想外も良い所だよ」
「………俺も驚いたね。剣と魔法の世界にスーツ姿でいられる奴がいるなんてな」
仕立て屋に置かれたカタログや見本に載っているかのような土色のスーツ。重厚な生地に、皺のない見事な仕上がりで、青年の首元に留まるネクタイも、明け方の空に近い蒼に染まっている。
「逆コスプレって奴か?」
「良い仕立てだろう? 我が社の特注品なんだ」
相田の挑発を受ける事なく、青年は肩の長さに揃えられた黒髪に指を絡めながら回す。
そして、左右のポケットに細い手を入れると、地面に寝たきりの相田を見下ろした。




