⑤不器用を極めた男
「………疲れた、な」
体が思うように動かない。
手足の指先に風や砂が当たる感覚がある事から、ある程度の不安は消えるものの、それでも相田の体は海の中にいるように軽く、しかし体は金縛りのように不自由であった。
風が弱まっていく。
「………今更ながら、凄い人生だった」
訳も分からず魔法がある世界に転移し、ゼロから生活を始め、殺し合いに巻き込まれてきた。しかし気が付けば、自ら殺し合いに参加し、油断や優しさで大切な人を失い、誰かを守る為に誰かの命を握り潰してきた。
諸行無常。
相田は、この時間が今までで最も落ち着いた時間だと気付く。
「どうだ、望み通りやってやったぞ?」
空気に向かって呟く。
「うむ」
相田の傍には男が立っていた。
「お前、本当に見てただけだったな………だが、どうだ? 勝ったぞ」
動かない右手の代わりに、相田は心の中で拳を握ってみせる。
人生の中で失敗を恐れ、人の顔色を窺い過ぎて何もかもが中途半端だったことが何度もあった。誰にでも優しいという自分を作り出し、その性格を言い訳にしてきた相田にとって、初めて自分の決断とその結果を褒めていた。
「この力に、人の持つその力に、かつての余は負けたのだ。そして、その力を余は求めたい………その意味では、良いものを見させてもらった。流石は余の友、見事である」
「ふん、相変わらず上から目線な奴め」
だが、相田の目には一筋の涙が通っていた。この世界に来て、否応なしに判断を迫られ、優しさだけでは物事が解決しない事を身をもって知らされ、ようやく相田は自分が求めていたものに辿り着く。
「そうか………俺は誰かに………認められたかったのか」
自分は決して無能と呼ばれる類の人間ではないと信じつつも、誰かと比べると劣っているかのように見えてくる恐怖。だがその恐怖は、誰でもない自分自身が作り出した幻想だったと気付かされる。
実は簡単な答えだったと、相田は肩を小さく振るわせて小刻みに笑っていた。
「どうした?」
大魔王が尋ねる。
相田はひとしきり笑った後、大きく息を吸い、そして吐き出す。
「いいや。何でもないさ………ただ、次はもっとうまくできそうだと思っただけさ」




