②魔剣の役割
「御主人様が—――」「生きている」
コルティに続いて、ケリケラから体の力が抜けていく。今まで根拠もなく信じ、漠然とした不安を押し込めてきた反動が、一気に放たれていく。
だが、大魔王の表情は険しいままであった。
そして右手を丁寧に、ゆっくりと外へと払うように動かすと、安堵している者達に最後まで聞くように釘をさした。
「残念だが、すぐに会える状況ではない」
生きているが、会う事は出来ない。その矛盾に近い情報に、周囲の表情が淀み始める。
「………どういう事だ?」
静かな空気の中、代表するかのようにリコルが眉を潜めた。
その問いに、大魔王は何かを懐かしむかのように目を瞑ると口を閉じ、右手を前へと突き出す。すると掌から黒い剣が姿を現し、同じ速度を維持したまま地面へと突き刺さった。
「これは………ブレイダスにあった魔剣ですね」
魔剣エビルカリバー。呪われた剣にして、魔王の剣である。
「そうだ」
大魔王はマキの言葉から、この剣の存在を知っている事を理解し、話を進める。
「この剣で、あの街に残っていた『死』にまつわる力を吸わせていた。お前達がこの剣を知っているならば、双子竜が近くにいた事も知っているな」
その言葉の組み合わせから、コルティの頭の中で断片化されていた事実が繋がった。
「………不死である双子竜を媒体に、街や土地に存在していた負の力を誘引させたのですね」
「うむ」
魔剣の中にいた頃から、双子竜は死を管理する力をもっていた。故にその力を使い、剣は呪われた魔剣となり、今回の一件も瀕死だった双子竜が、周囲から『死』を集める事で、自らを生かし続けつつ、魔剣へと力を注ぐ門となっていたのである。
そして、全ての力を吸い上げた事で役割を終え、彼等は土に還った。
「今やこの武器は、余と余の友以外に触れる事すら叶わぬ程の剣と化した」
「………触らなくて良かったですね」
「ぐぬぅ」
カレンがリコルの顔を細い眼で覗くが、彼はすぐに視線をずらす。
「それで? お父さんの剣を何に使うのさ」
ケリケラが大魔王に問う。
目の前の呪われた剣を用いれば、コルティ達の悩みが解決するような話の流れであったが、大魔王は黒い刀身を見つめると、再び掌の中にしまい込んでしまった。
「いや………これはあくまでもあの地の浄化と、余計な者が復活しないようにする為の措置だ」
余計な者。
古の魔王アスタロッテは、例えその肉体を滅ぼされても、時間をかければ再生する事ができる。大魔王は剣の役割を、彼女が再生に必要な材料を跡地から奪い、剣に集めて封じただけに過ぎないと補足した。




