①大魔王は空気を読まない
「随分と、遅かったような気もしますが」
むせ返る兄に水筒を渡すマキが、大魔王を横目に不満を口にする。
見る者によって、彼女の言動は不敬に捉えられかねない態度であったが、大魔王は意に介さずに。静かに目を閉じ、そして開く。
「そうか。それは済まなかったな………あぁ、済まなかったといえば、貴様を生き返らせた際も―――」「そ、その時の事はもういいですからっ!」
一気に顔を赤らめた彼女は、急に大魔王の言葉を遮り、手を振り、頬を膨らませた。
「え、何? 何で怒ってるの?」
あの時。あの場にいなかったカレンにとっては、二人の会話を理解できずにいた。
それに気付いた大魔王が、彼女に顔を向ける。
「別に大した事ではない。余が、あの者を生き返らせた際に、服の再生までは考えていなかったからな。故に―――」「大魔王様」
今度は、コルティが咳払いをして止めに入る。
「その話は、あまり公言するべき内容ではありません」
言葉を止められた大魔王は顎に指を這わせると、『ふむ』と小さく鼻を鳴らす。
「人間の感情とはやはり複雑だな。余にとって、まだまだ理解しづらいものが多すぎる」
焚火の木が一際大きな音を立てて跳ね、それを合図に、大魔王は話題を変えた。
「さて、何から話すべきか………そうだな、まずはお前達が最も知りたいであろう、余の友の事から伝えるとしよう」
―――余の友。
その言葉の意味を理解する為に、時間を要した者と、そうでない者に二分されたが、すぐに大魔王が、その名を口にし、全員が理解する。
大魔王は右手の人差し指を軽く振ると、何もない空間からこの場に似つかわしくない貴族用の椅子が顔を出し、ゆっくりと土の上に着地する。
「………何て、場違いな」
思わずリコルが素直な感想を漏らす。
「気にするな。他意はない」
「有り無しの話じゃない。場に合わせろって意味だ」
彼の言葉を横に、大魔王が周囲よりやや視線が高くなる形で腰かけた。
「そうか、余にはまだ難しいな」
「こいつ………そう言えば何でも許されると思ってないか?」
指を向けていたリコルが溜息と共にそう吐きつつ、それ以上の会話を諦める。
一呼吸置くと、焚火を中心に全員が大魔王に体を向けていた。大魔王も、肘掛けに置いていた左手で口元を隠し、言葉を選び始めた。
「結論から言おう………余の友は、生きている」
その一言に、コルティは反射的に息を止め、両手で口を押さえる。




