⑩赤と黒の少女
既にフォーネの命が果てていると聞かされていたが、その姿を大魔王以外見た者はおらず、相田と共にどこかでまだ生きているのではないか。そんな確証のない空想的な希望を抱きつつも、コルティ達はリコルの現実的な一言に勝る言葉を返す事ができずにいた。
次第に北風が落ち着き始め、薪が跳ねる音とどこからか届けられてくる虫の音だけが交互に聞こえてくる。
「勘違い………でしょうか」
コルティが肩を落とす。
規則的な静けさから、徐々に感情を落ち付かせた彼女達が肩で息を吐くと、目の下を軽く擦りながら、お互いに視線を合わせるように座り始めた。
「敵発見! てんちゅぅぅぅぅ!」「ぶほぉぉぉあっ!」
高い声と共に、リコルは口の中の肉を噴き出した。
「お、お兄様!?」
隣で盛大に汚い声を張り上げた彼に、一体何が起きたのか分からずにマキも声を上げる。
彼女からの視点では 誰かが兄の両横腹を抱くように鋭く突いた所までは見えたが、その誰かまでは把握できなかった。他のコルティ達も一斉に驚いて立ち上がり、周囲を改めて見渡した。
そしてマキが、リコルの後ろで立っている存在に目を向ける。
「………子ども?」
人気のない場所に、最も予想外の子どもが現れた事に、彼女はそれ以上の言葉が続かなかった。
針のある艶肌と大人の腰程度の身長から、十にも満たない少女。肩を過ぎる程の長い黒髪は人形のように毛並みが揃い、無邪気な顔でありながら、落ち着き過ぎたかのような雰囲気を併せもつ不思議な雰囲気を帯びていた。
「しかし、この近くに街は………」
「コルティ! この子の服!」
コルティが顎に手を当てて考えていると、ケリケラが翼を少女に向けながら叫ぶ。
その言葉の意味に、カレンも気が付いた。
「この子が着ているのって………色は違うけど、まさか」
「………退魔士の服」
コルティが最後に呟く。少女の着ていた服は、鮮やかな真紅であったが、そのつくりはフォーネが着ていた退魔士の服と全く同じであった。
「こんの、ガキんちょめ。一体どっから来た」
口元の汚れを拭き取ったリコルが、片頬を痙攣させながら少女の前に立ちはだかる。
「貴重な肉を………人の食事を邪魔するなって、親には教わらなかったのか?」
堪能していた肉を噴き零し、さらに手から離れたジャガイモを土塗れにされた事で、リコルはこれ見よがしに拳骨を少女の顔の前で見せつける。




