⑨懐かしい声
「………おいしぃ」
手で口元を隠したマキの目が、大きくなっていく。
「え、何ですか、これ。芋なのに柔らかくて、甘くて………でもバターだけの甘さだけじゃない?」
「満足してもらえて何よりです。さぁ、皆さんの分もありますよ」
食事の時、旨い物を食べるだけで元気が湧いてくる。一人よりも大勢で食べた方が、さらに旨くなる。その相乗効果が、いつしか全員の寒さと不安を払い退けていた。
「ねぇねぇ! フォー………の分は!? 分は!?」
背中を押されながらコルティの体が左右に揺らされ、食事をせがまれる。
また懐かしい声である。
思わずコルティの頬が緩む。
「はいはい、フォーネの分もちゃんと………あら、数が足りないわね。仕方ないから先に私の分を—――」
―――何かがおかしい。
自分の目元に触れたコルティが、いつの間にか自分の目から涙が流れていた事に気付く。
「コルティ、どうしたの?」
ケリケラが一筋の涙を頬に通したコルティを、心配そうに覗き込む。
「おかしいですね………先程、声を掛けられたと思ったのですが」
体を揺らされた背後に、人影はなかった。
「あ、お肉発見! いただきまぁぁす!」
ケリケラが足で掴んでいた肉串が引っ張られる。
「あ、ちょっ! フォーネ! それはボクの分だよっ!」
相変わらず人の分まで狙うのかと、ケリケラが睨むように顔を向けると、そこには誰もいなかった。
「え、ちょっと………何で? 確かにそこに―――」
ケリケラの目にも涙が零れていた。
「コルティ? ケリケラ? 一体、何が………どうなってるの?」
気が付けばカレンも頬を濡らしていた。
「私にも、声が、フォーネの聞こえたんだけど」
相田と共に帰って来なかった仲間の声。大魔王から彼女の最期を聞かされていただけに、三人はまさかと立ち上がり、周囲の気配を必死に探り始める。
しかし、暗い森の中で声の主を見つける事は出来なかった。
「………空耳、じゃないのか?」
新しい串に手を伸ばし、黙々と肉を頬張るリコルが、落ち着かない三人に雑な声をかける。
「そ………それは」
否定できない可能性に、カレンの言葉が詰まる。




